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2章 ①

  「ぎっくり腰ですか!?」 『そうなんだよ……ちょっとソファを動かそうかと思っただけなんだが』  腰に響くのか、いつものホッホッホッ、にも元気がない。  朝、いつもの出勤時間に店に行くと、鍵が閉まっていた。  通常であれば、先にマスターが来ていて、すでに仕込みを始めている時間だ。  しばらく待ってみたが、開店時間も迫るし、外でじっと立っているのも暑くて、どうしようかとまごついていると、マスターから電話がかかってきた。 『いや、今日は朝から一人だったし、電話も遠いしで参ったよ。連絡が遅くなってすまないね』 「いえ、俺は全然。大丈夫ですか? 俺、そっち行きましょうか。あ、でも店……」  透瑠がどちらを優先すべきか迷っていると、後ろから聞き覚えのある声が降ってきた。 「あれ、今日休み?」  怜が大きな鞄を抱えて、にこにこ透瑠を見下ろしていた。 「そんじゃあ、豆の準備はこれでいいかな。マスター、今から俺そっち行くから。ええと、車とってきてからだから30分後くらいかな。うん、動けたら保険証出しといて。はいはーい」  怜はスマホをしまうと、透瑠に向き直った。 「透瑠くんはいつもの準備進めてて。俺、マスター病院に連れてったらまた戻ってくるから。それまで一人だけど大丈夫?」 「だ……大丈夫にきまってるだろっ」  うんうん、と言って怜は透瑠の頭をくしゃっと撫でた。完全に子供扱いだ。ムカッとして透瑠はその手をはねのけた。  怜の行動はスムーズだった。  鍵はいつもここに隠してるんだよね~と言いながらポストの内側に貼りつけてある鍵を取り出し、中に入ってから食材の確認、さすがにコーヒー豆のことはマスターに電話していたが、まるで自分の店のようにカウンター内を歩き回る。食器や鍋の位置も熟知しているようだ。  怜が来てくれて助かった……というべきなのだろう。透瑠一人では、きっと何もできなかった。店は臨時休業にしただろう。稼ぎ時の日曜日に。  でも、なんかムカつく。  さっきの頭ナデナデだってそうだ。   「はよーッス……あれ? マスターは?」

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