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2章 ③
***
「いや〜昨日はすまなかったね。大変だったろう」
翌日、怜に伴われてマスターが店に出勤してきた。
「大丈夫ですか? あんまり無理しないほうが……」
「うん、もう痛くないから大丈夫。でも立ちっぱなしはちょっときついかな」
「マスター、今日はランチ休んだら? 俺も今日は会社行かなきゃだし」
昨日は日曜だったから怜が閉店までいてくれたが、今日は平日だ。
「うーん、そうだな。すまないけど、そうさせてもらおうかな」
「マスター、すみません。俺が早く覚えればいいのに……」
世話になっているマスターの役に立てない。そのことが悔しかった。
「何言ってるんだい。君はここに来てまだ一ヶ月だよ。そんなこと思う必要ない」
マスターが透瑠の頭を撫でてくれる。マスターのよしよし、はなぜか素直に受け入れられる。
隣で怜が膨れっ面をしているのが横目に見えた。
「はよーッス。あれマスター? 大丈夫なの?」
いつもより早い時間に真治が現れた。
「まあなんとかってとこかなぁ。申し訳ないけど、ランチは休もうと思ってたとこだよ」
「そんなことかと思って、ちょっと早めに来てみたんだ。指示してくれたら仕込み手伝えるかと思って」
と、真治がコックコートの腕を捲った。
「大丈夫かい? そっちも忙しい時間だろう」
「親父の了解はもらってきたから平気平気。んで、何からする?」
そこまで黙っていた怜が、
「え〜、真治だけズルい。俺も手伝う!」
「お前は会社に行け」
と、真治がジロリと睨んだので、透瑠はまた吹き出しそうになった。
じゃあまた帰りは送るから、と言い残して怜は車を置いてしぶしぶ出勤して行った。
「やれやれだな……自分幾つだと思ってんだ、あいつ」
真治はケーキをショーケースに並べながら、ため息をついた。
正直、まだ真治とはうまく話せない。風貌のせいだろうか、口調が乱暴なせいだろうか。
筋骨隆々、という言葉がピッタリくる。顔もどちらかというと強面で、一重瞼の目つきはかなり鋭い。
透瑠は頭ごなしに怒鳴られて過ごすことが多かった。何か話そうとすると、口答えするなと返されて、何も言えなくなる。それなら最初から黙って言う通りにしたほうがいい。それが透瑠の処世術だった。
それでも、この街に来て、マスターに救われて。少しは変われるかもしれない。そう期待していた。
「ふ、二人は、仲いいんですね」
「小学校からの腐れ縁ってだけだ」
何か会話を、と思って話しかけたが、一言で終わってしまった。
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