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3章 ②
困惑して、マスターを見やる。正直、真治のことはまだ慣れてない。うまく話が出来る自信がない。マスターはまたホッホッホッと笑いをこぼして、
「大丈夫大丈夫。真治くんはああ見えても優しいから。仲良くなれるチャンスじゃないか」
「でも……」
「透瑠くんの絵が素敵だからだよ。勇気を出して、行っておいで」
マスターが頭を撫でてくれる。そうされているうちに安心してきて、素直にはい、と頷いていた。
***
洋菓子店『MINEZAKI』は、リュミエールから二、三分歩いてすぐのところにあった。確かにこれで『出張』とは大げさかもしれない。
フランスに留学していた真治の父親が始めた店で、白とブルーを基調にした外観が趣きを感じさせる。
なるべくマスターにも、真治にも負担のかからない時間帯を選んできたつもりだが、大丈夫だろうか。
綺麗な薄い青色のドアをそっと押してみる。
「いらっしゃいませ」
穏やかな女性の声が出迎えてくれる。おそらく、真治の母だろう。
「あ、あの……」
真治を呼び出してほしいが、なんと言ってよいか分からない。
奥に目をやると、ガラス越しに真治と、おそらくその父がケーキのデコレーションをしているのが見えた。真治の父も同じような体格で、厨房はとても狭苦しそうだ。
透瑠がおたおたしているうちに、声をかけられた。
「もしかして真治にご用なの? ちょっと待ってね」
にっこり微笑むと、真治の母は奥へと姿を消した。手持ち無沙汰になり、店の中をきょろきょろと見回す。
外観と同じ、白とブルーの壁に囲まれた可愛らしい空間だ。奥の方に二つ、小さなテーブルと椅子。
ショーケースには色とりどりのケーキが並んでいる。カウンターの籠にはクッキー、マドレーヌ、フィナンシェ。いつもリュミエールでみるお菓子ばかりだ。
「悪い、待たせた」
奥からのっそりと真治が現れた。天井が低く感じる。後ろから小柄な母親が顔を出して、
「あら、あなたが絵を描いてくださる方だったのね。水沢さん……だったかしら」
ペコリと軽く会釈する。
「ちょっと座って話すか」
と、真治が奥のテーブルを親指で指し示した。
「そういえば、お前うちのケーキ食ったことあんのか」
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