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3章 ④

 そしてまた腕を組んで、窓から外を眺める。真夏の太陽は午後になってますます眩しく、視界を遮る。窓からのぞく中庭の緑が光を反射してキラキラ輝いていた。 「……ケーキ食べてるときって、時間の流れが穏やかな気がするんだ」  ぼそりと、独り言のように真治が言葉を発した。 「まあ、俺は、そういう時間を提供したいっていうか……まあそんなのが伝わるといいなと……柄じゃねえけどな」  そう言うと真治はいきなり立ち上がって、 「食ったら声かけろ。奥、案内するから」  と、後ろ頭を掻きながら、茫然とする透瑠をおいて去って行った。  一人、ケーキと紅茶を堪能しながら、窓の外を眺める。  たまにはこんな時間も悪くない。  そう感じる自分にも驚きながら、透瑠は口元が緩むのを抑えきれなかった。   ***  それからしばらく、透瑠は『MINEZAKI』に顔を出すようになった。  ランチタイムが終わり、午後のティータイムが始まる前まで。あとは閉店時間の後に少しだけ。  怜は基本的には昼休みしか来れないから透瑠がここに来ているのはバレていないはずだが、いつ遭遇するか分からない。少しどきどきする。  カウンターの中にスペースを作ってもらい、ひとつひとつ、ケーキの断面図を描いていく。可愛らしさを出すのに、デフォルメした動物に説明させるようなデザインにしてみた。  真治がケーキに込めた思いがお客さんにも伝わるといい。そう考えると自然と集中力がまして、『時間よ』と声をかけられるまで気づかないこともしょっちゅうだった。  同時進行で新メニューのポップも進めていた。リュミエールで作業すると怜に見つかるかもしれないので、こちらに持ってきて一緒に進めている。 「――ん」  ことりと、テーブルの隅に紅茶のカップを二つ置いて、真治がそばにある椅子に座った。手元をのぞきこんでくる。  今日のは……オレンジペコかな、と匂いであたりをつけてみる。何日も通ううちに、紅茶の名前もあらかた覚えてしまった。 「お、それカレーのやつか」 「はい」  さすがに真治の乱暴な口調にも慣れてきた。本心は優しいのだとマスターが言っていたのが、だんだん解ってきた気がする。  カレーのキャラクターをいろいろ思いつくままに描いてみているが、なかなか決まらない。

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