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5章 ①
そろそろ閉店時間だ。
透瑠は表の看板を取り込むために、外に出た。
西日が眩しい。――そういえば、ここに初めてたどり着いたときも閉店時間ギリギリだったな。
あれから数カ月。太陽もだいぶ傾き、夕方のこの時間は風も涼しくなってきた。
こんなに、穏やかな時間を過ごせるようになるなんて、あの頃は思ってもみなかった。
透瑠が物思いに耽っていると、遠くから「おーい」と声がする。
振り向くと、夕陽を背に両手を振り上げてこちらに走って来る長い人影が見えた。
背も高くてスタイルよくて顔も声もいいってもう犯罪ではないだろうか。性格でプラマイゼロか、と透瑠は苦笑した。
「許可おりました〜!」
「は?」
いきなり何の話を始めたのか。
「ま、ま、とりあえず入って入って」
まるで自分の家のように、透瑠を店の中に促す。透瑠が片付けるはずの看板を当然のように怜が腕に抱えた。
透瑠と怜が店に戻ると、マスターがおや、というように二人を見た。怜が満面の笑みでⅤサインを出す。
「怜くん、決まったのかい?」
「うん! あと本人とご家族の承諾だけ」
そうかそうか、とマスターが笑顔で頷くのを困惑したまま透瑠が眺めていると、エプロンのポケットが振動した。
「マスター、灯里 さんまっすぐ帰るって」
「ああ、じゃあカレー持ち帰りしようかな。家で食べよう。怜くんも食べるかい?」
「……食べる」
スマホのメッセージを確認してから顔を上げると、なぜか怜がムスッとしていた。
灯里というのはマスターの細君で、小さいながら会社を経営している。買い付けとかで海外を飛び回っており、あまり家にいることがない。今回も久々の再会だ。
マスターより15歳年下と聞いたので30代後半だと思われるが、もっと若く見える。
「じゃあ、怜くんの話はうちでゆっくり聞こうかな。灯里さんも聞きたいだろうし」
そんじゃ車とってくる、と言って怜は店を出て行った。
怜が急に不機嫌になったのが不可解で、透瑠は眉を寄せてマスターを見た。
マスターはクスクス笑いながら、ああ、と言って
「怜くんは灯里さんが苦手だからね。あんまり会いたくないんだよ」
「駿 ちゃん、ただいま〜!」
マスターの家で夕食の準備をしていると、玄関から明るい元気な声が響いてきた。
「おかえりなさい」
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