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7章 ①
外はずっと雨が降り続いている。今日はもうやみそうもない。
透瑠は、イラストを引き受けたことを少し後悔し始めていた。
あの日『大丈夫です』と言ってしまったからには、完成させないといけない。それは分かっていた。
怜が『断ってもいいんだよ』と言ってくれていたにも関わらず、請けてしまったのは、あのとき横でハラハラするように見ていた怜が気に入らなかったからだ。
――子供扱いしている。
そう思った。実際、子供なのだが。怜にそう思われるのは、何故か嫌だった。
絵を描くときはもっぱら色鉛筆だった。一番身近で、手に取りやすい道具だったからだ。
図書館で本を借りたりして、使い方を勉強した。学べば学ぶほど、奥深さを感じ、どんどん楽しくなった。
今回も家で色鉛筆で描いている。最終的にはデータ化するので、パソコンの描画ソフトを使って事務所で描くことも勧められたが、慣れない環境で、知らない大人達に囲まれて、いいアイデアが浮かぶとは思えなかった。それに、パソコンを使う機会など今までほとんどなかったので、尻込みしたのもあった。
なので出来上がった時点で怜に手渡しして三角に見てもらっている。
もう何度か案を出してみた。しかし、三角のOKがなかなか出ない。
困ったことに、仕事中にもつい考えてしまい、手元がおろそかになってしまったりする。
「透瑠くん、水あふれてるよ」
流しで洗い物をしながら、横からマスターに声をかけられてはっとする。
「す、すみません」
店の仕事に支障が出たら、本末転倒だ。マスターに迷惑がかかる。
「大丈夫だけど……寝不足とかになってない? あまり根をつめないようにね」
マスターの優しい心遣いが嬉しい。
「はい。ありがとうございます」
だが、どうしてOKが出ないのか、透瑠には答えがみえてこない。正直、何が駄目なのか分からなくなってきていた。
「こんちは~」
バリトンボイスを響かせて、怜がドアを開ける。もうそんな時間かと思い、壁にかかっている鳩時計を見る。
怜は特に用事がなければ、だいたい12時すぎにはやってくる。今日はパソコンのバックを抱えているので、長い時間こもるつもりなのかもしれない。
定位置に座った怜に、水とお手拭きを持っていく。
「ありがと。……透瑠くん、あとでちょっと時間いい?」
いつになく沈んだ顔をしている。昨日提出したイラストの件だろう。
「うん……ランチ終わったら」
怜はにこりと少しだけ口元を上げる。そして、いつものお願いします、と言う。
なんで敬語なんだ。
気になったけれども、ランチタイムは戦争なので、いちいち気にしている暇がない。
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