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7章 ③
「親父にもう学校やめるって泣き言いってたら、そう言われたんだ。だからお前が学校行くことで幸せじゃないなら行かなくていいって言われた。……でも結局、真治に出会ってから行けるようになったんだけど」
てへ、と可愛く舌を出す。
怜の手が透瑠の髪に触れる。
そして――何故かいつもだったらはねのけてしまう手を受け入れてしまう。頭を撫でられる感触が心地よい。
「透瑠くんの幸せは、なに?」
「……わ、かんねえ……」
生きるだけで必死で。そんなこと、考えたことなかった。
「俺、一緒に探したい。透瑠くんと……一緒にいても、いい……?」
――それは。どういう意味――?
そう言葉にしようとして、怜を見上げると。
思った以上に間近にある怜の熱っぽい視線にどきりとした。
「さと……」
薄くて形のいい唇が近づいてくる。――触れてしまう。自分の唇に――。
ベルがカランとなった。
「ただいま〜。いやあ、豆屋さんでつい話しこんでしまったよ」
「お、おかえりなさい!」
素早く立ち上がって、怜の腕から逃れる。温もりが遠のく。
心臓がドクドクと音をたてている。
「イラスト、どう? うまくいきそう? あそこ……あ、言ったらダメなんだよね」
シーッと人差し指を口にあててマスターが声をひそめた。
「懐かしいなあ。僕もよく灯里さんと行ったよ。また行きたくなっちゃうねえ」
そこで下を向いていた怜が、はっとしたように顔を上げた。
「透瑠くん、もしかしてあそこ行ったことない?」
「……悪かったな」
遊園地など、行く機会はなかった。
「よし。じゃ一緒に行こう!」
「え?」
怜はすっくと立ちあがって、拳を握りしめた。
「行ったことないのにイメージするなんて無茶だよな。気づかなくてごめん。今度の定休日って……明日か、予定空いてる?」
「え、まあ……」
怜はスマホを取り出すと、素早くどこかに電話しだした。
「あ、三角さん? 俺、明日年休とりまーす。え? はいはーい。スケジュール表? どこでしたっけ? はーい……わっかりました〜」
パソコンを操作しながら、
「ちぇ、サーバのどこにあるかくらい教えてくれていいのに……あ、休み取れたから。明日ね」
と、透瑠を見て片目を瞑った。
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