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8章 ①
「晴れてよかったね〜」
「……うん」
昨日まで降り続いていた雨が嘘のように晴れた。
アパートまで迎えに来ると怜が言うのを店の駐車場でいいと遠慮したのに、朝、ドアを開けると見覚えのあるメタリックブルーの車が停まっていた。
透瑠に気づいて、運転席から大きく手を振っている。子供みたいだ。
透瑠がアパートの階段を降りてくると、わざわざ車から降りて来て、助手席のドアを開けてくれた。
そんな風に丁寧に扱われたことがない透瑠は戸惑うばかりだ。
身体のラインにそった肌触りのよさそうな真っ白なシャツに、高そうなジーンズを合わせている。薄い色のサングラスをかけた怜はスタイリッシュで、とてもこれから遊園地に行くとは思えない。
「……店でいいって言ったのに」
気後れしているのを悟られたくなくて、わざと不貞腐れたように言ったのに、
「うん、でも時間もったいないからさ」
気づいてないのか、怜は満面の笑みで返してきた。サングラスのせいか、狭い車内という距離感のせいか、いつもと違って見えて一瞬ドキリとする。
発車しまーす、と戯けたように言うと、怜はエンジンをかけアクセルを踏んだ。
カーステレオからは透瑠の知らない洋楽のロックバンドの曲が流れて来る。
「ごめん、うるさい?」
と聞いてくるのに、首を横に振って答える。どこかで聞いたことがあると思ったら、怜がよく鼻歌で歌っている曲だった。
少し開けられた窓から、初秋の風が入り込んで来る。涼しくて気持ちいい。風に煽られて透瑠は髪を結んでいないことに気づき、手首に巻いていたゴムで素早く括った。
「……髪、伸ばしてるの?」
運転席から怜が尋ねてきた。透瑠は前髪に手をやりながら、
「別に。散髪行く金がもったいないだけ」
後ろは肩の辺りまで伸ばして結べるくらい残すようにしているが、そろそろ前髪は切らねばならないかも。飲食店で働くなら、清潔感は重要だ。
「俺、今度切ったげようか」
「いいよ。あんたがそんなことしなくても、自分で出来る」
今までだってそうしてきた。なるべく人を頼らずに、自分で出来ることは自分でやる。
「そう? 俺、けっこう上手いと思うけどな〜」
だが怜が人懐こい笑顔を向けてくるのをむげに断るのも悪い気がしてきた。
「……まあ、機会があったら」
「うん」
……昨日のアレは、何だったんだろう。
ずっとそのことばかり考えてしまう。
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