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13章 ①

 こんなに長い間、怜に会わないのは初めてかもしれない。 「最近、怜くんお昼にも来ないんだよねえ」  マスターがコーヒーカップを拭きながら真治に話しかけている。閉店間際のこの時間、真治がここにいるのは珍しい。新作ケーキの売れ行きを確認に、と言っていたが本当だろうか。  透瑠は洗い物の手を休めず、ただ耳を傾けていた。 「あ〜……なんか忙しいみたいだな。今度の案件、あいつが中心でやらなきゃいけないみたいだし」 「そうなんだね。こないだ熱出したばっかりだし、あんまり無理しなきゃいいけどねえ……」  ふう、とマスターはため息をついた。  後片付けも終わり、マスターに「おつかれさまです」と挨拶をして帰路に着く。  季節はすっかり冬の装いだ。吐く息が白い。  そろそろあの遊園地のポスターの結果が出る頃だと思うが、どうなったんだろうか。  結果を知りたいが、そのために怜に会うのは気がひけた。  首に冷気を感じ、マフラーを巻き直して歩き出そうとしたときだった。 「――おい」  びくりとして足が止まった。真治が後ろから透瑠を呼び止めた。  ――やっぱり。そのためにこの時間にわざわざ来たんだろう。  真治は長くて太い足を動かして、あっという間に透瑠の横に並んだ。 「……あいつ、抜け殻みたいになってんだけど。なんかあったのか」  真治にどこまで話していいのだろう。黙ったまま、横を並んで歩く目つきの鋭い顔を見上げる。 「……なんかあったら相談しろって言ったろ」 「うん……」 「あいつに何かされたのか?」  黙って首を横に振る。 「怜さんは悪くない。俺が勝手に……意識してるだけだから」  真治はしばらく前を向いたまま黙っていた。二人で夜の街をゆっくり歩く。 「お前……好きなのか、あいつのこと」  ぼそりと独り言のように真治が言った。透瑠は、歩みを止めた。 「……バカみたいでしょ。俺なんか相手にされないのに……身分不相応ってやつ?」  自嘲気味に笑ってみせる。 「真治さんから伝えてもらっていい? もう、俺のことは気にしないでって。……キツイこと言ってごめんって」  真治は後ろ頭を掻きながら、はああ、とため息をついた。 「お前ら、とりあえずいっぺん二人で話し合え。全部ぶちまけちまった方が早い」 「え……無理、そんなの」 「やる前から無理って言わない。――ほれ、行くぞ」 「え、え、今から!?」  真治に首根っこをむんずと掴まれる。真治はもう片方の手でスマホを取り出して、 「お前今どこにいるんだよ。ああ? そんなもん後でいいからとっとと帰れ。今からそっち行くから」  ずるずると真治に引きずられ、車に放り込まれた。とても断れる雰囲気ではない。  怜に会える。けど会いたくない。  相反する想いに揺れながら、透瑠は目を閉じていた。  

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