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14章

「透瑠みてみて! キレーイ」  観覧車からの夜景は思った以上にきらびやかで圧倒された。 『約束だもんね』  と言われ、二度目の遊園地。  今回はジェットコースターは一回に留め(それでも酔いが回ったようだった)、定番のお化け屋敷(怜は透瑠の後ろにずっとくっついていた)、ミラーハウスやコーヒーカップ、メリーゴーランド(馬に跨がる怜はとても目立っていた)など、手当たり次第にアトラクションをこなした。 「透瑠はどれが一番楽しかった? あ、ジェットコースター以外で」 「うーん……」  正直、どれも初めてで面白かった。 「全部、かな」 「ホント! よかった」  怜はニコニコして、透瑠の隣に座ってきた。 「……狭い」 「え〜いいじゃん、くっつきたいの!」  本当に27歳か、こいつ。  時々、真剣に疑いたくなる。 「それに今日は特別な日でしょ! ――じゃーん!」  鞄から綺麗にラッピングされた小さい箱を取り出して、怜は透瑠に差し出した。 「お誕生日おめでとう!」 「え……」 「マスターに聞いちゃった。も〜、透瑠言わないんだもん! 間に合ってよかったよ……」  絶対この日、この日じゃないと休み取れないとすごくこだわっていた訳がようやく分かった。  その日は透瑠の誕生日だと、言っていいのか迷ったあげく結局言えず、でも怜と過ごせるならいいかと思っていた。  すっごく迷ったんだけどね、と怜が満面の笑顔で開けて、と促す。  視線をばしばし感じながら、箱を開けていく。 「これ……」  中には黒くて細い革紐のチョーカーが入っていた。 「これね、ラピスラズリなんだよ。この青がね〜、なんかすごく気に入っちゃって」  真ん中にある青い小さな宝石を指さす。 「透瑠の色だもんね」  手の中にある青い石を見つめて黙ってしまった透瑠を怜がのぞきこんでくる。  胸の奥からじわじわとこみ上げてきて、透瑠は目が潤んでくるのを止められなかった。 「わ、わわわ、どした?」  オロオロしだす怜の腕をとって、見上げる。 「……こんなに嬉しいの、初めてだから」 「透瑠……」 「ありがとう。俺、この街に来てよかった。マスターに助けてもらってよかった。……怜に会えて……よかった」 「俺もだよ」  怜が透瑠の頭を引き寄せて、両腕に包みこんだ。 「――今日は透瑠に感謝する日だから」 「感謝?」 「……生まれてきてくれてありがとうの日だよ」  耳に、怜の鼓動が響いてくる。怜の声が直接流れてくる。 「……あんたの誕生日は?」 「お祝いしてくれるの?」 「……当たり前だろ」 「プレゼントは透瑠くんの初めてがいいです」  頬を頭にすりすりしてくる。透瑠は顔が赤くなるのを感じて、  「バカじゃねえの……」 「ちなみに来月です」 「えっ」 「それまでに覚悟を決めて俺の胸に飛び込んでほしいです」  あれから何度かベッドを共にした。けど、いつも怜は透瑠に尋ねてくれて、最後までせずにいてくれる。待たせて悪いとは思っているのだが。 「う、ん……努力する」  絞り出すように答えると、また頬をすりすりしながら、 「うーん努力してくれるのめっちゃ嬉しいけど無理してほしくない! でも困った顔も可愛い!」 「なんだよそれ……」 「あ、大事なこと忘れてた」 「ん?」  怜が急に顔を上げたので、透瑠もすりすりで乱れた髪を整えながら背筋を伸ばした。 「プレゼン通った」  ニッと笑った。 「そっか。――おめでとう」 「他人事じゃないからね! 透瑠もチームなんだからねっ」 「う、うん……」 「ちょっと忙しくなるな〜。マスターに了解もらわなきゃ」  あのポスターが形になる。たくさんの人に見てもらえる。 「……嬉しい?」 「うん……」  また目頭が熱くなってしまう。  怜の手が透瑠の頬を包みこんだ。 「――あともうひとつ大事なこと」 「なに……?」  色素の薄い大きな瞳に、色とりどりのライトが映り込んでいる。 「――夜景観ながらのキス」  その瞳が近づいてきて睫毛を伏せたので、透瑠も自分の瞳をゆっくり閉じた。

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