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デートに行こう! ②

 ***  真冬の空気は冷え切っていたが、澄んでいて気持ちがいい。  白い息を吐きながら、ショッピングモールの遊歩道を並んで歩く。  『どこに行きたい?』と訊かれたが、怜と一緒ならどこでも嬉しい。すぐには答えられずに唸っていると、怜が少し照れくさそうに言った。 『……テッパンなデートしてみたい』  そもそも何をもって『テッパン』なのか透瑠には分からなかったので、もう怜にまかせることにした。  コートの裾を翻して颯爽と歩く怜の姿はさながらモデルのようで周囲の目を惹く。……自分が隣にいていいのだろうか。そう思うと、横に並んでいるのがいけないことのように感じ、一歩後ろに引いた。 「透瑠?」  それに気づいた怜が透瑠をふり返る。  気後れしていた透瑠の手をぐいっと掴んで、怜はその手を自分のコートのポケットに入れた。 「怜……っ?」 「……透瑠の手、冷たくなってる」  ポケットの中で大きな手が透瑠の手を包みこむ。  にっこり微笑む怜の頬が、少し紅く染まっている。  ……ああ、そうだよな。  怜はそんなヤツだから。  俺も、そうありたい。  飾らない、自分のままで。 「ちょっと寒くなってきたなあ。そろそろ中入ろっか」  そう言う怜の鼻先が少し赤みをましてて、透瑠はくすりと笑った。 「あ、これ透瑠に似合いそう」  建物に入ってずらっと並ぶ店先をぶらぶらうろついていたが、怜がある洋服店の前で足を止めた。よく目にするブランド名だが、透瑠には敷居が高くて入ったことはない。 「いらっしゃいませ」  店員が近づいて来たのを怜は、 「ゆっくり見たいので。決まったら声かけますね」  と営業スマイルで追い払う。透瑠には「邪魔すんなボケ」と頭の横にフキダシが見えた。ような気がした。 「透瑠、これ着てみて!」  と怜が腕に抱えていた服をどさっと透瑠に渡してくる。 「こんなに?」 「うーん迷っちゃって。こっちは色がキレイだし、こっちはデザインがいいし。これにはこのパンツ合いそうでしょ?」  チラッと見える鎖骨が、とか怪しい独り言をつぶやきながら、怜が真剣な顔で組み合わせを考えている。 「ま、着てもらった方が早いと思って」  ね? とにっこり笑って試着室へと誘導される。  結局、言われるがままに試着をくり返し、カーテンを開ける度にうわあとかぎゃあとか小さく雄叫びをあげる怜にジロジロ見られて、透瑠はいたたまれなくなってきた。遠くから先程の店員がちらちら視線を送ってくるのも気になる。  怜は他人から視線を浴びることなど慣れているのだろう、一向に気にする気配はない。  はああ、と大きくため息をつく透瑠に 「ごめん、疲れた? どれも似合ってて困る〜どおしよ」  と嬉しそうに顔をのぞきこんでくる。透瑠は苦笑して、 「大丈夫。疲れてない」  と答えた。      絞りきれない怜が試着したもの全部買うと言い出したので、透瑠は慌てて止めに入った。試着室で見た値札は、一着でも透瑠には手が届きそうにない数字だった。 「俺が払うんだから、透瑠は気にしないで」 「でも俺、なんにも返せない」 「いーのいーの。俺が透瑠に着てほしいんだから。たまには年上っぽいことさせて」  ね? とウィンクしてくる。  それなら普段の言動をどうにかしろと言いたくなったが、やめた。言って直るものならとうに直っている。なので、別の言葉を口にした。 「……ありがとう」  ぱあっと怜の顔が輝いた。眩しくて、目を細めてしまう。  怜が選んだ買ったばかりの服をそのまま着て店を出る。正直、服に着られてる気がして落ちつかない。でも怜がニコニコして見てくるので、まあいいかと透瑠は自分を納得させた。  大きな紙袋をロッカーに預けて、再び広いモール内をうろつく。ただ歩いてるだけなのに。どうしてこんなに楽しいんだろう。  隣を歩く怜を見上げる。ん? と微笑んでくるその顔にドキリとした。 「……なんでもない」  目を合わせているとドキドキが止まらないので、顔を伏せた。そのかわり、怜のコートの袖を少し摘んだ。 「……透瑠……可愛い」  上から降ってきた声が、透瑠の耳をくすぐる。 「……俺、透瑠と付き合えるようになってよかった」 「……なんで」 「可愛いって思ったとき、すぐ言葉にできるから」 「バカじゃねえの……」 「うん、そういうとこも可愛い」  どうしてこういうことをさらっと言えるのかな。言われた方は照れくさくて、恥ずかしくてたまらない。  ふいっと視線を怜から外した先に、黄色いうごめくものが見えた。 「ヒヨコ……?」 「ああ、アニマルカフェがあるんだよ。ヒヨコとか、インコとか。あとフクロウとフェレットなんかもいたかな」  ちょっと、触ってみたい。  期待をこめて怜を振り仰ぐと、怜は「え、行くの……?」と困ったような顔をしたがついてきてくれた。

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