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第6話
「帰って!」
歩くたびに胸が締め付けられるように苦しくなって、視界が涙で歪んでいく。
本当に好きだった。
嘘をついた罰だ。一度だけのつもりが欲張りになった罰だ。
ボロボロと涙は床に落ちていく。
「もう、帰って!ゲホッゲホ!」
急に立ち上がり大きな声を出したからか、目眩と同時に咳込み、壁にもたれながら座り込んだ。
もう何もかもめちゃくちゃだ。
「大丈夫か?」
「僕に構うな!」
相沢の腕ごと振り払おうとした瞬間。
それは言葉ごとキスで塞がれて、更に混乱する。
「なんで、キス……したの?」
「テンパってる田宮が可愛かったから」
「やっぱ面白がってる」
「面白がってないって」
俯いて涙がポタポタと床に落ちていくのを見ていると、相沢も床に座って僕の手を取った。
「ずっと不思議だったんだよね。最初に田宮が声をかけてきた時、高校の時とまるで印象が違ったから。まぁ、俺のこと見てたのは気付いてたし、それだけ俺のこと好きなんだろうなって思ってた」
そう言いながら僕の指を捏ねる様に握る。
「でも、いくら抱いても田宮は俺のことが好きって言わないし、態度にも出そうとしない癖に俺が見てない所ではずっと俺のこと見てるじゃん。それにいくら言っても泊まらないし、家の場所すら教えないしさ。来てみてびっくりしたよ! 俺の家からすげー近いじゃん‼︎」
「……ご、ごめん」
相沢は溜息をついた。
「絶対に俺のことが好きな筈なのにって、こんなにも振り回されたのなんて初めてだった」
「振り回してない」
「いや、充分振り回された」
「……だから仕返しに来たの?」
振り回したつもりは毛頭なかったけど、きっと怒ってると思ってオドオドしたまま顔をあげれば、相沢は肩を揺らして笑っていた。
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