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6.世間話と感情変化
「ごちでした」
「え、もう行くの」
「マスター待たせてるんで」
「マスター、そんなに時間にうるさくない人でしょ。買い出しに行かせるというのはさ、少し気分転換しておいでって意味だよ」
いたずらっぽい視線を投げた文雄に、若干の苛立ちが生まれる。
どうして到流に関わろうとするのだろうか。こちらとしては、特に文雄と関わりたいとは思っていない。空気を読んで欲しい。
「気分転換?」
「買い出しなんて本当はあまり必要ないんだ。どうしてかって言うと、マスターが電話すれば、必要な食材は配達してくれるから。これまで買い出し頼まれたことって、頻繁にある?」
「……そう言われると」
確かに、ほとんどなかった。
よほど到流が鬱々としていたのだろうか。
ここ数日、なんとなく気分が晴れなかった。マスターはそれに気づいていたのだろうか。
「だからね。少し時間を潰していこうよ。マスター、ゆっくり行っておいでって、言わなかった?」
「だけど……」
「ほら。もしかしたらマスターだって、到流くんのいない間に誰かと会ってるかもしれないし」
「──は?」
いつのまにか到流の飲み干したカップの中におかわりのコーヒーを注ぎながら、文雄は意味深なことを言った。
もしかしてマスターの恋人でも来ていると、暗に言っているのだろうか? 到流より文雄の方が付き合いは長いのだろうし、何か事情を知っている可能性もあった。
まだ、戻らない方が良いのだろうか?
逡巡していたら、文雄ががさごそとどこから茶菓子を持ち出してきた。本気で長居させるつもりのようだ。
マスター以外の誰かと長く話すのは久し振りで、なんとなく変な気持ちになる。出された茶菓子はさして旨いとは言えなかったが、そんなことは気にならなかった。
文雄は学生時代のことを楽しそうに話してくれて、充実した時を過ごしたのだなと羨ましくも思ったが、それは妬みとかそういった類いの感情ではない。
こんな気持ちは初めてだった。
なんなのだろうか、これは。
自分自身の感情の変化に戸惑いながらも、そろそろカメリアのことが気になってきた。
「あの、そろそろ……俺、戻ります」
「またいつでもおいで。気分転換に」
最後に見た笑顔は、どこか寂しそうに思えた。それは先日カメリアを訪れた際に見た表情と似ていた。
文雄は孤独なのだろうか?
気になったものの、突っ込んでは聞けなかった。
「〽まちーのでんきやさーん、なかーせでんきー」
無意識に口ずさんだテーマソングは、すっかり到流の脳内を侵蝕していた。
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