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8.アンバランス

 交換する品と伝票を袋に入れて、商店街を行く。先ほどコーヒーをご馳走になった中瀬電機に文雄の姿は見えなかったが、他の男性店員が客対応をしているのが目の端に入った。それが何故か一瞬、到流の父の姿と重なり、ぎくりとする。  ばっと二度見して、見間違いであったことにすぐに気づいた。  こんなところにいるわけがない。そもそも父とはしばらく顔を合わせていない。どれくらい老けたのかは知らないが、別れた時のままの姿であるわけがなかった。  父の存在が、どうにも近頃の到流の脳裏に住み着いていた。  幻を見るほどなのであれば、本当に一度きちんと会って話し合うべきなのだろう。そうも思う。 「なんなんだ……」  思わず独り言が出たが、聞く者はいない。商店街を行き交う人々は到流にとって劇中のモブでしかない。一人一人の顔など薄ぼんやりとして記憶にも残らない。  歩いていたら目的の個人商店に辿り着いた。そして何故か、そこには濃紺の作業服に着替えた文雄が何かの作業をしていた。  何故か、心拍数が上がる。 「あれっ、また会ったね」  照明の交換か何かだろうか。脚立の上から文雄がこちらに気づき、気さくに声を掛けた。個人商店の店主は到流を見るなり、ばつの悪い顔をする。 「ああ、悪かったなあ。おっちゃん品物間違えて渡したって? さっきカメリアさんから電話があったよ」 「いえ……確かめなかった俺も悪いんで」  既にマスターから連絡が入っていたようで、話の通りが早い。到流は持参した袋を店主に手渡した。 「最近調子が悪くてなあ。老朽化が進んでるのかもなあ」 「老朽化……?」  変な物言いをした店主に内心首をかしげる。年のせい、と表現すべきではなかろうか。……とここまで考えて、店主が店の照明について話していることに気づく。  文雄は蛍光灯の交換ではなく、照明器具を根本から直しているところだったのだ。 「おやっさん、これは大掛かりになりそうですよ」 「そうかいー……まあ、仕方ない。必要経費だ」 「おっと……!」  急に脚立のバランスが崩れた。  避けなければ、と思ったが間に合わず、到流は脚立から落下する文雄に巻き込まれてしまった。頭を掻き回されるような感覚に陥って、目の前が暗くなった。  この街を出よう。  父に会いに行こう。  その前に祖母の家に立ち寄って、元気な顔を見せよう。  到流は暗くなった夜の道を一人で歩いていた。商店街を抜けると、駅への道程はひどく寒々しく感じられた。そろそろクリスマスシーズンで、色とりどりのイルミネーションが飾られているが、不思議と人気は少ない。  少ないと言うよりも、人はいるのだがあまり気配を感じられない。  切符を買い、駅の改札口へ向かおうとするが何故か足が止まる。  これ以上進んではいけない気がした。明確な理由もわからず、冷や汗が出る。  潮騒のノイズがざわざわと聞こえた。  二階の窓から見える蔦が伸びて到流を絡め取る。  赤い椿の花がぼたりと地面に落下する。それはまるで血だまりのようにも見えた。    今年度中にはシステムを終了させます    β版のエラー修正の進捗はどうなってる?    原因不明ですが、一部動作が不安定で    まあいい 所詮は──  それ以上行ってはならない。  この領域を出てはならない。  何故ならば、

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