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俺が口を開き。
イスに座る男の人が、お粥を掬ったレンゲを運ぶ。
そんな機械的な作業を淡々と続けて、十数分後。
「スンマセン。……ンマかったッス」
「そう。よかった」
全てキレイに、食べさせて貰った。
「ゴチっした」
「お粗末様でした」
――全然粗末な味じゃなかったけど。
とは思ったが、わざわざそこまで言う必要もないだろう。
俺は失言をしないよう、口を閉ざした。
男の人はトレーをテーブルに置き、俺を見る。
「えっと……。いきなりこんなところに連れて来られて、驚いただろう?」
「まぁ、ウス」
「ごめんね。……薄々分かっているかもしれないけど、ここは僕の家で、僕の部屋だ」
――ですよね! イメージがピッタリッスよ!
とも言わず、一度だけ頷く。
男の人は弱々しい笑みを消して、今度は心配そうに眉尻を下げる。
「きみは雨に濡れて、体温がかなり奪われていたんだよ。凄く冷たくなっていて……今は、寒くない?」
――雨に、濡れていた?
俺はもしかして、コンビニに行く途中で倒れたのか?
(『あーん』してもらうことに照れるより、泥酔して道端で倒れたことを恥じるべきだったな……ッ)
――いたたまれねェ!
グルグルと余計なことを考えたが、まずはこの人からの質問に答えよう。
「平気ッス」
ベッドを貸してくれて、毛布もかけてくれていた。
暖房でもつけてくれたのか、部屋もあったかい。
なら、寒がる理由なんてどこにもねェよ。俺、風邪とか全然ひかねェし。
といった具合でムダに胸を張りたくなったが、ふと、あることに気付く。
(……ン? 今、この人……『雨に濡れて』って、言ったよな?)
考えると同時に、視線を落とす。
男の人から……俺は今、自分が着ている服を見た。
(なんだこの、ハデな服?)
目の前にいるこの人は、シンプルなデザインの服を着ている。
なのに、今。
俺が着ている服は、とんでもなく激しいデザイン。
ハデさの限界点を極めたような、そんな服だった。
(この人の、趣味……には、見えねェな)
どう見ても、この人とは対照的。
そしてもうひとつ不思議なことに、服のサイズが俺にほぼピッタリなのだ。
俺より細身な、この人の服なワケがない。
(家族の服か?)
そんな疑問は湧いてきたけど、名前も知らない他人の家族構成なんて、わざわざ訊くモンでもないだろう。
消去法で、口にしていい言葉がなくなった。
だからこそ、俺は黙る。
そうすると。
「――僕は、赤城 鈴華 。……きみは?」
男の人が、すっ、と……手を、差し出してきた。
――自己紹介の、握手か。
男の人――赤城さんの色白な手に、お世辞にも華奢とは言えない俺の手を伸ばす。
「本渡 果 、ッス」
赤城さんの手は、思っていたよりは温かい。
(俺が言うのもなんだけど……りんか、鈴華……か)
可愛い名前だな、ウン。
そう思っていると、赤城さんが口を開く。
「【鈴華】って、女の子みたいな名前だよね」
「ッスね」
――もしかして、赤城さんは読心術の使い手か?
素直すぎる俺の肯定を聞いて、赤城さんは小さな笑みを浮かべた。
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