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名前が可愛いと肯定したのは、間違いだったのか。
とは言っても、俺はウソを吐くのが苦手だ。
……じゃあ、しょうがないな、ウン。
赤城さんは小さく笑ったまま、話を続ける。
「父親は女の子がほしかったらしい」
そんな、身の上話を。
なんだかそれが妙に嬉しくて、俺は自分からも話題を探した。
「そうなんスね。……ちなみにココって、赤城さんしか住んでない家なんスか?」
「そうだよ。……どうして?」
「そりゃ、ご家族の人に迷惑かけたら、申し訳ないって言うか……。あっ、今も十分迷惑かけてるッスよね、スンマセン!」
「わっ。だ、大丈夫だよ、落ち着いて……ね?」
――ダメだーッ! 会話を振ると墓穴を掘る!
そもそも俺は、気の利いた話とかができるような男じゃねェッ! いつだって、彼女に振られるのはそんな感じの理由でだし!
内心で大慌てしながら、俺は赤城さんを見る。
「スンマセン。……じゃあ今、この家には赤城さんだけしかいない、ってことッスよね?」
もしもそうなのだとしたら、俺が今借りているであろうこの服は、赤城さんの私服ということになってしまう。
……赤城さんにこのデザインは、超絶似合わねェと思うけど。
そんな軽い気持ちで訊いたことなのに、どうしてか赤城さんは。
「えっと……そう、かな」
――妙に、歯切れが悪かった。
そこで俺は、またしてもデリカシーのないことを言ってしまったのだと気付く。
(そ、そうか! 赤城さんだってこういう服が好きなのかもしれねェ! ……仮にそうだとしたら、俺の訊き方はよくなかったんじゃねェか?)
人は誰しも、似合う服だけを着るワケじゃない。
女装するおっさんだっているし、パンツが見えそうなくらい短い丈のスカートを穿く奇想天外な女だっているんだ。
……だとしても、赤城さんがこのハデシャツを好きだとしたら、意外すぎる趣味だと思う。
それでも、失言は失言だ。
「追及するようなマネしてスンマセンでした! えっと、い、今の質問は忘れてください!」
「えっ? あっ、う、うん。わかったよ」
頭を下げると、赤城さんは慌てた様子で承諾。
それから俺は頭を上げて、赤城さんを見る。
目が合うと、赤城さんは優しく微笑みかけてくれた。
「もう少し休んでから帰るといいよ」
微笑む赤城さんに、俺もしっかりと視線を合わせる。
「えっ、いいんスか?」
「勿論、かまわないよ。自分の服に着替えてから帰りたいだろう?」
「そ、ッスね。……あの、俺の服って……?」
「今、乾燥機から出して干しているところだよ。だから、もう少しだけ待ってくれるかな」
なんて優しい人だろう。
見ず知らずの人に、ここまでしてくれるとは。
(服を乾かしてもらってるのは俺なのに、赤城さんの方が下手に出るのは変だろォに……)
赤城さんはきっと、気が弱いけど心根の優しいお方なんだ。
……こっそり、拝んでおこう。いいことがありそうだ。
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