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 服が乾くまで、ココにいてもいい。  ……とは、言われても。 (ただ寝てるのもなァ……)  雨の中ぶっ倒れていたとしても、俺は別に病人じゃない。 (いや、ほっぺたはすげェ痛いけど。コレ、絶対腫れてるよなァ……)  かと言って『ケガ人です』と言うほどでもなかったりする。  俺はなんとなく気まずくなり、話題を探した。 (服の話題……は、墓穴を掘りそうだから却下。じゃあ、家族の話? うぅん、デリケートな話題は俺に向いてないしなァ……)  結果的に、自分のポンコツっぷりを再認識しただけだ。チクショウめ。  そんなことを考えていると、まさかの赤城さんから声をかけてくれた。 「本渡君、は……っ」  そう言って。  ……妙に長い、間。 「なっ、ん、スか?」  ――基本的にはどんな話題にも乗っかる精神です!  ――オーライ、バッチコイって感じッスよ!  受け身体勢バッチリの状態で、赤城さんの言葉を待つ。  赤城さんは確実に、なにか言おうとした。  だと、いうのに。 「……すまない。忘れてくれ」  口を、閉ざしてしまった。  モチロン、言いかけられたら気になる。  気になったが、追求できるワケもない。 「そうッスか……」  露骨な意気消沈。  初対面の人に抱く感情ではないが、こう、若干……寂しい感じだ。  一瞬の静けさが、俺たちを包む。  当然ナイスな話題も思いつかない俺は、会話を提供できない。  すると、またもや赤城さんから話題を振ってもらえた。 「えっと、その。……もう一眠りしたら、どうかな?」 「へぁ?」  予想外の選択肢に、俺はマヌケな声を返す。  赤城さんは気にした様子もなく、言葉を続ける。 「きみは、雨の中倒れていたし……疲れているんじゃないかな」 「や、でも――」 「服が乾くまで、まだ時間がかかるだろうし」  確かに、赤城さんの言う通りだ。 (でも、もうちょっと……会話くらい)  俺は基本的に、人と話すことが好きなタイプだったりする。  人見知りはしないし、ワイワイ騒ぐのも大歓迎だ。……赤城さんは俺とタイプが違いすぎて、ちょっと話題に困っただけで。  だけど、鈍感な俺でもなんとなく感じた。 (赤城さん、今……俺のこと?)  ほんの少しだけ感じた【拒絶】の意に、俺はモヤモヤする。  だけど、できることなんて。  ……頷く、ということだけ。  俺は赤城さんに言われるがまま、横になった。 (このベッド……寝心地、いいな)  微かに香る、いい匂い。……柔軟剤だろうか。  恥ずかしい話だが……横になるとすぐ、睡魔が襲ってきた。  割とガッツリ疲れていたのかもしれない。 「おやすみ、本渡君」  小さくて、優しい声。  俺はその言葉に、まともな言葉を返せなかった。

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