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 赤城さんはずっと、この部屋に居てくれたのだろうか。 「ン……?」  まぶたを開いて、視線を動かす。  すると、眠ってしまう前と同じように、赤城さんがイスに座っていた。 「……あっ。おはよう、本渡君」 「おはよう、ございマス」 「服、乾いてるよ。……今さらだけど、もっと早く起こした方が良かったかな?」 「あ、いえ。予定があったワケじゃないんで」  赤城さんの足元には、紙袋が置いてある。  その中には、見覚えしかない服が入っていた。きちんと畳んで、だ。  メシの準備だけではなく、洗濯までしてもらって……なのに、俺は。 (ぐーすか寝てただけって、罪悪感がハンパねェ)  内心でガックリと肩を落とす。  絶賛落ち込み中の俺には気付いていないのか、赤城さんは小さな笑みを浮かべた。  そして、紙袋を差し出してくれる。 「これ、きみの服。……今、着替える? だったら、僕は部屋を出ているね」  俺は起き上がって、紙袋を受け取った。 「ホント、なにからなにまでスンマセン……」 「気にしないでいいよ。全部、僕が勝手にやったことだから」  露骨にショボンとした俺を見て、赤城さんは微笑む。  その声と表情を見ると、胸の辺りがホワンと温まる。 (こういう人のことを『マジ天使』って言うんだろうな)  思わずそう思ってしまうほどには、赤城さんの笑顔はキレイだった。  俺が勝手に落ち込んで勝手に和んでいると、赤城さんはポツリと呟く。 「――よかった、来なくて」  どことなく、不穏な言葉を。 「……え?」  赤城さんが、ポツリと呟いた言葉。  その意味が分からなくて、思わず聞き返す。  すると、独り言を呟いていたという自覚が無かったのか、赤城さんは驚いたような表情を浮かべた。 「えっと……なんでも、ないよ」  そう言って、困ったように笑う。 (立ち入っちゃ、ダメ……だよな)  俺は赤城さんから受け取った自分の服に着替えようと、立ち上がる。  するとその動きに気付いた赤城さんが、イスから立ち上がった。 (着替えて、服を返して。……それで、赤城さんとはお別れ……か)  初対面にしては、妙な急接近を果たしてしまったと思う。  でも、本来なら出会ったりしないタイプの人間だ。  もしもいつか出会えるんだとしたら……それは営業先とか、街中ですれ違う程度。  だから、赤城さんとはここで終わり。そういうモンだろう。  なのに……どうしてか、俺は。  ――その事実が、なぜかどうしても……受け入れられない。 (そもそも俺、赤城さんにしてもらいっぱなしで……なにも、返せてない)  部屋から出て行こうとする赤城さんの背中を、ジッと見つめる。  そして俺は、赤城さんに提案した。 「――あの、赤城さん! この服……洗ってから返しに来ても、いいッスか?」 「えっ?」  当たり障りがなくて、会う口実になりそうなきっかけ。  バカな俺が思いついた方法は、これしかなかったのだ。  1話[ 介抱と出会い ] 了

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