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2章[ 天使とカミングアウト ] 1
休み明けの俺は、上機嫌だった。
「よう、本渡。随分と上機嫌じゃねーか?」
「お、分かるか? まぁ、上機嫌だからな~! 分かっちまうよな~!」
「はははっ、うぜぇ~」
隣のデスクに座る同僚が声をかけてきたので、上機嫌さを隠すことなく対応。
なのに『うぜぇ』とはどういうことだ、説明しろ。
……まぁ、そんな小さいことにかまけるのはやめようか。
(俺は今、幸福を呼ぶアイテム……【赤城さんの連絡先】をゲットした男なんだからな!)
できる男は些細なことを気にしないのさ!
……え? いったいぜんたい、どういうことかって?
ふふふ! ならば説明しよう! 耳の穴かっぽじってよォく聴きやがれ! そして刮目し
ろ!
……オイ誰だ。『ただ自慢したいだけだろ』ってツッコミいれた奴。人の幸せは楽しく拝聴するモンだろォが。
今ならゲンコツ一発で許してやろう。
* * *
俺はあの日。
『借りた服を洗って返したい』といった趣旨の提案を、赤城さんにした。
特段変わったことを言ったつもりはなかったが、赤城さんにとったら驚きの提案だったらしい。
「えっ、と……?」
目を丸くして、考え込んでしまうほどだ。
さすがに、再会のきっかけを作ろうと必死すぎたか? と、俺は内心慌てた。
もしかしたらその慌てっぷりが、若干顔にも出ていたかもしれない。
しかし! 赤城さんは熟考に熟考を重ねた後。
「……分かった」
提案に対して、許可をくれた。
想像以上に悩まれたものだから、さすがの俺も発言を撤回しようかと思ったさ。
「あの、迷惑だったら俺――」
しかし、赤城さんは天使だった。
「――迷惑なんかじゃないよ。そうじゃないけど……逆に、こちらこそ迷惑をかけているんじゃないかなと思って」
――具体的にはどのあたりが迷惑なんスかね?
そんな素直すぎる疑問を、赤城さんは瞬時に解明。
「倒れていた本渡君を助けたのは、僕のエゴだ。それを、恩着せがましく見させてしまったのだとしたら……僕の方こそ、申し訳ない。きみが気にすることなんて、なにもないのに……」
どうやら、赤城さんからすると【赤城さんがしてくれたことは、なにも恩義を感じることではない】というのが、自論らしい。
普通の人なら、もうちょっと恩着せがましくしてくるんじゃないか? 金銭の要求とか。……それはかなりイヤだけど。
気にしすぎな赤城さんに詰め寄り、俺は自分の主張を強くぶつけた。
「全然! むしろ、これこそ俺のエゴッスよ! 赤城さんにとって迷惑なら全然やめます! けど、お礼させてもらえるなら嬉しいッス!」
勢いのある主張を受けて、赤城さんは目を白黒させている。
……が、やがて。
「じゃあ、お願いしようかな」
また、控えめで儚い、小さな花のような笑みを向けてくれたのだ。
すかさず俺は、赤城さんとのコンタクト手段を考えた。アポなし訪問で服を返しに来るだなんて、失礼だろう?
ということで! 俺は赤城さんの連絡先をゲットした! というワケだ!
知的すぎるぜ、俺!
……オイ、やめろよ。俺にそんな、可哀想な奴を見るような目ェ向けんのは。
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