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赤城さんは、美人で優しい人だった。
性別が女だったら、俺は惚れていたかもしれない。いいや、間違いなく惚れたね!
だってよォ、考えてみてくれよ?
道端で倒れてる男なんて、フツーに考えたらヤバいだろ? それを赤城さんは、助けてくれたんだぜ?
自慢じゃねェけど、俺は温厚そうな見た目じゃない。どっちかと言うと、気弱な人は寄ってくれねェような見た目だ。
なのに! 赤城さんは、俺を助けてくれた!
(赤城さんの体はきっと、半分以上が優しさでできてるんだな……)
俺は、どうだろう?
道端に見ず知らずの誰かが倒れていたら、家に連れ帰ってやれるだろうか?
……たぶん、声もかけない。俺はそんなに優しい人間じゃないからな。
つまり、結論! 赤城さんは優しい、いい人だ!
俺は、俺ができないことを平然とやってのける人には速攻で尊敬の念を向けるぜ!
同僚から向けられた冷ややかな目線を軽く受け流し、俺はパソコンに向き直る。
すると、不意に。
携帯が一度だけ、振動した。
物思いに耽っていた俺はつい、期待してしまう。
(もしかして、赤城さん?)
ワクワクしながら、送られてきたメッセージを眺める。
すると……差出人は、予想外の相手だった。
(……真里 ?)
メッセージの送り主として表示されている名前は、真里だ。
……俺のほっぺたをグーで殴った、張本人。つまり、元カノってやつ。
だからこそ俺は、違う意味で驚いた。
しかも、送られてきたメッセージの一番上に書いてあるのは『果?』だ。俺に連絡してるのに相手が俺以外なワケねぇだろ、どうした。
真里は、人のことをグーで殴るような奴だ。こんなしおらしい文章、ガラじゃねェ。……はずだ。
仕方がないので、送られてきたメッセージをきちんと読むことにする。
『果? この前は、叩いてごめんなさい』
なるほど、謝罪か。それなら、しおらしいのも納得だ。
真里に殴られ、振られた日のことを思い出す。
そしてすぐに……赤城さんとの出会いに、繋がる。
(真里が殴ったから……俺はイライラして、酒を浴びるように飲んだんだもんな)
――女のクセに、パンチが重てェんだよ、ふざけんな!
そんな、今思うとワケの分からない理由での、やけ酒だった。
なので俺は、素直な気持ちを返信する。
『むしろ、サンキュー』
あの時、真里に殴られていなかったら。
きっと俺は、赤城さんと出会えなかっただろう。
過程はどうあれ、結果的には良かったのだ。
すると、真里からの返信が思いのほか早く送られてくる。
『果、マゾだったの?』
……なに言ってんだこの女。
前言撤回。真里への感謝なんてカケラもねェわ。
そうだな……。赤城さんとの出会いは、名前をつけるなら【運命】ってところか。
「本渡? なにスマホ見ながらニヤニヤしてるんだよ。控えめに言って、キモイぞ?」
「キレそうだ」
なんなんだこの世界は。赤城さん以外は悪人しかいないのかよ。
今日の赤城さんが俗世の穢れに触れないよう、俺は心の底から祈った。
――赤城さん、安心してください!
――隣に座る害悪は、とりあえず一発殴っておきましたので!
隣でギャンギャン喚く同僚――もとい、害悪は華麗にスルーだぜ。
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