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 翌日の俺は、上機嫌だった。  いったいなにがあったかって? 待て待て、焦るな。ちゃんと説明するさ。  俺が上機嫌な理由。……それは、ふたつある。  まず、真里が昼メシ用の弁当を作ってくれた。  普段はコンビニ弁当が定番となっていた俺にとっては、喜ばしいことだ。  真里は料理がウマいくせに、面倒くさがってなかなか作ってくれないからな。こういうのを【怪我の功名】とでも言うんだろう。殴られたのは、そこまでマイナスじゃなかったかもしれない。  モチロン、弁当は美味しく頂いた。  会社の人には『愛妻弁当か』なんてからかわれたりもしたが、それすらも優越感として変換する。リア充万歳だ。  そして、もうひとつ。  どっちかと言うと、こっちが本命だ。  * * *  仕事終わりのこと。  握った携帯から数回、コール音が鳴る。  そして不意に、物音が聞こえた。 「あっ、赤城さん? 本渡ッス」 『本渡君? こんにちは。どうしたのかな』  久し振りに聞いた、赤城さんの声。  真里とは違って、落ち着いた優しい声だ。  だけど、どことなく疲れているようにも聞こえる。  ……気のせいかもしれないけど。  俺は妙な緊張感を抱きながら、本題を告げる。 「あの、この前貸してもらった服なんスけど。……今日、持って行ってもいいッスか?」 『今日? えっと、少し待ってて?』 「ッス」  ペラペラと、ページを捲るような音が聞こえた。  スケジュール帳だろうか。 (スケジュール帳に予定書いてるのか? 赤城さんはマメだなァ……)  俺はそんな面倒なことを一切したことがないので、尊敬だ。  赤城さんへの尊敬度を上げていると、今度は物音ではなく、赤城さんの声が聞こえてきた。 『待たせてごめんね。今日は大丈夫』 「じゃあ、今から行ってもいいッスか?」 『分かったよ。待っているね』  赤城さんが了承してくれたのを聞いてから、通話を切る。 (今日の予定なのに、赤城さんは憶えてなかったのか?)  通話を終わらせた俺は、思わずそんなことを考えた。  今晩の予定を今晩確認するなんて、よく考えたらちょっと抜けてる気がする。 (赤城さんって、意外と天然なのか? ギャップかよ、悪くねェぞ!)  なんだか、赤城さんに対する理解を深めた気持ちだ。  俺は上機嫌になって、赤城さんの家へ向かった。  * * *  赤城さんの家に着き、インターホンを鳴らす。  するとすぐに、扉が開いた。 「こんばんは、本渡君。そして、いらっしゃい」  赤城さんは今日も、シンプルなデザインの服を着ている。  黒いジーパンに、白いシャツ。  赤城さんのファッションに対するこだわりって、無地か? それとも、シンプルさ?  ……まぁ、あのハデな服より断然似合ってるからいいけど! 「こんばんは、赤城さん! あの、この前はホント、ありがとうございました! ……あっ、それとコレ、つまらない物ッスけど……」 「えっ、お土産を持って来てくれたのかい? そんな、気にしなくてよかったのに……っ」  赤城さんから借りた服の入った袋。  それと一緒に俺は、お菓子の入った袋も差し出した。

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