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 二度目の、赤城さん宅訪問。  今日は赤城さんの部屋ではなく、リビングだ。 「いただきます」  赤城さんはそう言って、持っていたフォークでバウムクーヘンを食べ始めた。  そんな単純すぎる所作すらも、キレイだ。 「俺も、いただきます」  赤城さんの向かいに座った俺も、赤城さんに続いて食べ始める。  フォークに刺したバウムクーヘンを、赤城さんが口に入れた。  その瞬間。 「美味しい……っ」  至福そうに微笑んだ。 (あんなにウマそうな顔してバウムクーヘン食う人いるか? バウムクーヘン美味しくモグモグ大会で優勝間違いなしだぞ!)  内心では、騒がしく。  しかし表面的には静かにしながら、俺はその様子を黙って眺めた。  赤城さんは、バウムクーヘンをとても嬉しそうに食べ進めている。  そして不意に、俺を見た。 (しま……ッ)  目が合ったということは、凝視していたことがバレてしまったということだ。  赤城さんは途端に、顔を赤らめてしまう。  その様子を見て、俺が何でかドキリとしてしまった。 (えっ? もしかして赤城さん、照れてるのか?)  照れ顔がここまで儚げな大人、いるだろうか?  少なくとも、俺の知り合いには赤城さんしかいない。 「バウムクーヘン、好きなんですか?」 「え、っと……」  バウムクーヘンをフォークで刺してから、赤城さんは呟く。 「バウムクーヘンが……と、言うより……甘いもの、が……」 「好き、なんスか?」 「……っ」  俺の問いかけに、赤城さんは小さく頷いた。  フォークに刺したバウムクーヘンを食べて、咀嚼してから……赤城さんは呟く。 「その……男なのに、変だろう? 学生の頃、同級生にからかわれたことがあるから、分かってはいるのだけれど……」 「そんなことないと思うッス!」  自嘲気味に笑う赤城さんを見て、俺は思わず。  力強く、否定した。  赤城さんのそんな表情、見たくなかったからだ。 「人の好みなんて、ホント、色々じゃないッスか! 可愛いものが好きな男だっていますし、逆に、カッコいいのが好きな女だっています!」  赤城さんから、自嘲気味な笑みが消える。  けれど、今度は驚いたような目をしていた。 「変じゃ、ない? ……そう、かな?」 「お菓子を作ってる職人だって、男の人が多いじゃないッスか! 赤城さんが変な人だったら、パティシエはヘンタイの集まりになりますよ!」 「それは、さすがに言いすぎな気が……」 「言い得て妙ってやつッス!」  赤城さんが悲しむくらいなら、パティシエ全員ヘンタイになったってかまわないだろ!  そのくらいの心意気で力説すると、赤城さんは少し考えるように、口を閉ざした。  ――そして。 「――本渡君は、不思議な人だね」  ――可笑しそうに、笑った。  その笑顔は、いつもの儚げなものと同じ。  だけど……こんな風に、楽しそうな笑顔は。  ――初めて、見た。 (なっ、なんで、俺……顔、熱くなってるんだ……ッ?)  ――顔がどんどん、熱くなってくる。  別に、この部屋は暑くないのに。

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