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妙な発熱を持て余しながら、俺はバウムクーヘンをパクパクと食べる。
そして、捲し立てるように誤魔化した。
「俺、不思議な人ッスかね? 別に、普通だと思いますけど!」
「あっ、す、すまないっ。悪い意味じゃないんだ」
俺が怒ってしまったとか、悲しんだとかって勘違いをしたのだろうか。
赤城さんは慌ててフォローをする。
そんな様子が、なんだか面白い。
「えっと、その……っ。……話していると、気を遣わなくていいからかな。本渡君と話すのは、落ち着く」
「えっ?」
「あっ、すまない。僕はまた、変なことを言ってしまったね。……この年になって、言い訳みたいで恥ずかしいのだけれど……僕は、人と話すのがそんなに上手じゃなくて……っ」
赤城さんも誤魔化すように、バウムクーヘンを食べ進める。
なんとなく気恥ずかしくて、俺もバウムクーヘンを食べ進めた。
カチャカチャという、食器の音。それだけが、リビングに響く。
お互いに黙って食べているだけだと、それはそれで気まずい。
俺は沈黙に耐えられなくなり、話題を探した。
「――赤城さんって、彼女とか、いるんスか?」
「え?」
赤城さんの顔が困惑に染まる。
その瞬間。
俺は自分の失言に気付いた。
(おっ、俺ェエッ! なに言ってるんだマジで! デリカシーどうしたッ! 奴は死んだんだな、オーケーッ! 今すぐ蘇生しろォオッ!)
内心では大パニックだ。
たぶん、顔にも出ているだろう。
「あっ、いえッ! その、深い意味はなくてですね……ッ!」
慌てる俺とは対照的に。
「……彼女は、いない」
赤城さんは、冷静だった。
フォークをテーブルに置いて、赤城さんは俯いている。
(まさか、この手の話題に乗っかってくれるとは!)
起死回生の大チャンス!
俺はなんとか話を盛り上げつつ逸らそうと、奮起した。
「そ、そうなんスね! 彼女、いないんです……か……?」
不意に。
――赤城さんの言葉が、妙に引っ掛かった。
(彼女『は』?)
――別に、なにもおかしな受け答えじゃなかっただろう。
――普通の答えだ。
――おかしくない、大丈夫。
なのに、どうしてだ?
(なんか、ザワザワする……ッ?)
言葉にできない、妙なザワザワ感。
仮に名付けるのなら【イヤな予感】だ。
(イヤ、別に……赤城さんに彼女がいなくても、いいじゃんか。周りの見る目がないってだけで、別に……)
頭の中が、やけに騒がしい。
言い表せない動揺を抱えたまま、正面に座る赤城さんを見た。
警鐘みたいに、頭の中が盛り上がる。
イヤな予感は、なかなか消えてくれない。
そして、すぐに。
――その予感は、的中した。
「――彼氏が、いる……っ」
ナゾのザワザワが、一瞬で消え去る。
それは……赤城さんによる、とんでもないカミングアウトによって。
2章[ 天使とカミングアウト ] 了
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