16 / 69

2 : 7

 妙な発熱を持て余しながら、俺はバウムクーヘンをパクパクと食べる。  そして、捲し立てるように誤魔化した。 「俺、不思議な人ッスかね? 別に、普通だと思いますけど!」 「あっ、す、すまないっ。悪い意味じゃないんだ」  俺が怒ってしまったとか、悲しんだとかって勘違いをしたのだろうか。  赤城さんは慌ててフォローをする。  そんな様子が、なんだか面白い。 「えっと、その……っ。……話していると、気を遣わなくていいからかな。本渡君と話すのは、落ち着く」 「えっ?」 「あっ、すまない。僕はまた、変なことを言ってしまったね。……この年になって、言い訳みたいで恥ずかしいのだけれど……僕は、人と話すのがそんなに上手じゃなくて……っ」  赤城さんも誤魔化すように、バウムクーヘンを食べ進める。  なんとなく気恥ずかしくて、俺もバウムクーヘンを食べ進めた。  カチャカチャという、食器の音。それだけが、リビングに響く。  お互いに黙って食べているだけだと、それはそれで気まずい。  俺は沈黙に耐えられなくなり、話題を探した。 「――赤城さんって、彼女とか、いるんスか?」 「え?」  赤城さんの顔が困惑に染まる。  その瞬間。  俺は自分の失言に気付いた。 (おっ、俺ェエッ! なに言ってるんだマジで! デリカシーどうしたッ! 奴は死んだんだな、オーケーッ! 今すぐ蘇生しろォオッ!)  内心では大パニックだ。  たぶん、顔にも出ているだろう。 「あっ、いえッ! その、深い意味はなくてですね……ッ!」  慌てる俺とは対照的に。 「……彼女は、いない」  赤城さんは、冷静だった。  フォークをテーブルに置いて、赤城さんは俯いている。 (まさか、この手の話題に乗っかってくれるとは!)  起死回生の大チャンス!  俺はなんとか話を盛り上げつつ逸らそうと、奮起した。 「そ、そうなんスね! 彼女、いないんです……か……?」  不意に。  ――赤城さんの言葉が、妙に引っ掛かった。 (彼女『は』?)  ――別に、なにもおかしな受け答えじゃなかっただろう。  ――普通の答えだ。  ――おかしくない、大丈夫。  なのに、どうしてだ? (なんか、ザワザワする……ッ?)  言葉にできない、妙なザワザワ感。  仮に名付けるのなら【イヤな予感】だ。 (イヤ、別に……赤城さんに彼女がいなくても、いいじゃんか。周りの見る目がないってだけで、別に……)  頭の中が、やけに騒がしい。  言い表せない動揺を抱えたまま、正面に座る赤城さんを見た。  警鐘みたいに、頭の中が盛り上がる。  イヤな予感は、なかなか消えてくれない。  そして、すぐに。  ――その予感は、的中した。 「――彼氏が、いる……っ」  ナゾのザワザワが、一瞬で消え去る。  それは……赤城さんによる、とんでもないカミングアウトによって。 2章[ 天使とカミングアウト ] 了

ともだちにシェアしよう!