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俺は真里と──彼女と、復縁した。
そして赤城さんにも、恋人がいる。
なら、これはただの世間話。なにもおかしくないし、悪くもない。
ないはず、なのに……ッ。
「ど、どんな人……なんスか? 赤城さんの、彼氏って」
――どうにか、世間話みたいなノリにしなくては。
――このままでは、会話がなくなってしまう。
そんな、フワッとした不安が……俺の喉から、言葉を生んだ。
話を振られた赤城さんは、相手を思い出しているのだろうか。
考えながら、ポツポツと答える。
「僕より、若い人だね。本渡君くらいの年齢、かな? 体格も、本渡君に似てて……家事は苦手」
まだ、赤城さんの表情は晴れていない。
――笑ってほしい。
その一心で、俺は赤城さんの好きな人の話題を探そうとした。
(俺と同年代くらいで、同じ体格か。……ン? ってことは、もしかして……?)
俺はふと、あることに気付く。
「もしかして、俺に貸してくれた服って……その、彼氏の服ッスか?」
「あぁ、そうだね。あの子のだよ」
よく分かったねと言いたげに、赤城さんが頷いた。
(なるほどな! あのハデな服は、赤城さんの彼氏の服だったのか!)
そりゃ、赤城さんの趣味っぽくないデザインだったワケだ。
深く納得し、俺は何度も頷いた。
そんな俺を見て、赤城さんがようやく小さな笑みを浮かべる。
「ふふっ。僕の服かと思ったかい?」
「えっ、あー……ぶっちゃけ、ハイ」
「僕には似合わないだろう?」
「ッスね」
クスクスと、赤城さんが笑う。
小さく、肩を揺らしながら。
(ヤッパリ……赤城さんは、笑顔が似合うな)
赤城さんの笑顔が戻ってきて、嬉しい。
俺は内心で大きく頷きながら、赤城さんの笑顔を見つめる。
すると、今度は赤城さんから話題を振ってくれた。
「本渡君は?」
「え? なにがッスか?」
「彼女。本渡君には、いるのかなって」
微笑んで訊ねてくる赤城さんに、俺は少しだけ安心して答える。
「いますねェ。……バイオレンスで暴力的な彼女が」
「バイオレンスで、暴力的な子……なのかい?」
俺の言葉を復唱した赤城さんが突然、なにかに気付いたみたいに、ハッとした。
「もしかして、倒れていた時にあった頬の腫れは、その人が……っ?」
「そうなんスよ! グーで殴られたんス! マジありえないッスよね!」
「ほ、本当に、強い子だね……」
驚いた様子で、赤城さんは目をパチパチさせている。……驚き方までもが天使だな、マジで。
赤城さんは、暴力とは縁遠そうだ。なのに、身近な相手がグーで殴られて……しかもその犯人が女ときたら、驚くのもムリねェよな。
俺の言葉に赤城さんが表情を変えてくれたのが嬉しくて、俺は真里の話を続行する。
「怒りっぽい奴ッスよ。仕事の飲み会だって言っても、全然信じてくンなくて……それで、一発かまされました」
自分のほっぺたに、拳を軽くぶつけてみた。殴られた、というモーションの再現だ。
それを見た赤城さんは、なにを思ったのか。
「――女の子でも、殴るんだね……」
少しだけ、引っ掛かる言い方をしてきた。
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