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 赤城さんが、しみじみと頷く。  その表情は、やけに神妙そうだ。  だけど俺はどうしても、赤城さんのセリフが引っ掛かる。 「――女の子『でも』?」  赤城さんの中で、女ってのは大和撫子オンリーなのかもしれない。  そう、受け取ったつもりだった。変な解釈はしていない。  そういう意味で、言ったつもりの言葉だ。  赤城さんの周りにいた女の人って、もっと淑やかなんですか? 的なニュアンスの、言葉。  ――それなのに。 「……あっ。い、今のは……っ」  ――赤城さんが、露骨に。  ――失言をしてしまったように、慌て始める。 「……っ」  口元を押さえて、赤城さんは俺から視線を逸らす。  ――明らかに、動揺している。 (今のは、えっと……?)  人の彼女を強暴扱いしたことに対する、罪悪感か?  それなら実に、赤城さんらしい。  でも……もし仮にそうだったら、赤城さんはすぐに謝ると思う。 「「…………」」  どちらもなにも言えず、気まずい沈黙が流れる。  どう考えても、真里に対する失言。……じゃ、なさそうだ。 (でも、そうじゃないなら……えっと?)  真里じゃなくて、暴力に対するコメント。  ……だと、したら? 「赤城さん、もしかして――」  沈黙と、自分の考えに耐えかねた俺は、口を開く。  ――それと同時に。  ――静寂を打ち破る、ドデカい音が響いた。  音は、玄関から聞こえている。  そしてどんどん……俺たちがいるリビングに、近付いてきているようだ。 「なッ、なんだッ?」  穏やかじゃない物音に警戒した俺は、イスから思わず立ち上がる。  そうすると、突然。  リビングの扉が、開かれた。 「――オイッ、鈴華ッ! あの靴、誰のモンだよッ!」  扉を開いたのは……ひとりの、若い男だ。  髪の色は、金。  耳にはピアスが、三個ずつ。オマケに、唇にも。  着ている服のデザインが、驚くほどハデな……そんな男。 (あの服って、なんか……ッ)  ――俺が借りた服と、似たタイプのデザイン。  赤城さんを下の名前で呼んだその男は、俺のことをジロリと睨みつける。  メチャクチャにイライラしてるその男を見て、赤城さんは狼狽えていた。 「えっ? けん、いち……っ? なんで――」 「オイ、鈴華。コイツ、誰だよ」  オロオロしている赤城さんとは、対照的に。  嫌悪感を剥き出しにした男は、俺をギロリと睨んでいる。  舌打ちをして、一応、赤城さんからの返事を待っているけど……今にも、殴りかかってきそうだ。  ――説明なんかされなくたって、すぐに分かった。  ――この人が、赤城さんの彼氏だ。

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