20 / 69
3 : 4
いきなり現れた、赤城さんの彼氏。
……本人から説明はされてないけど、たぶん合ってるだろう。
自分の方も訊きたいことがあったはずなのに、赤城さんはまず、彼氏の疑問を解消させることにしたらしい
「この人は、本渡果くん」
彼氏が望んだとおり、俺の紹介をした。
対する彼氏は、赤城さんに対して不遜な態度のままだ。
「鈴華とどんな関係なワケ」
「雨の中倒れていたところを放っておけなくて、介抱してあげたんだ。それで今日は、そのお礼に来てくれただけだよ」
「ふぅーん……」
俺の話をしているのに、俺は蚊帳の外っぽい。
(どうしよう。俺はなにか、言うべきなのか?)
――かと言って『よろしくな!』って自己紹介する雰囲気……でも、ないしなァ……。
なにか言うべきか、それともこのまま黙っているべきか。
悩んでいると、彼氏が俺を睨みつけた。
「オイ、お前」
睨まれるとさすがにいい気はしないが、俺は赤城さんの彼氏を見る。
俺だって、凄めばそれなりに怖いタイプだ。むしろ、ちょっと難しい顔をしていても道を譲られる。
だが、別にケンカ好きとかってワケじゃない。怖いモンは俺だって怖い。
つまりなにが言いたいかと言うと……こう、不機嫌そうに睨まれると、それだけで畏縮してしまうということだ。
内心ビビってる俺を見て、彼氏は言葉を続けた。
「オレは江藤 兼壱 。鈴華の恋人だ」
「兼壱っ!」
予想外にも、彼氏はすぐに自己紹介をし始める。
すると、赤城さんの顔が一気に赤くなった。
(赤城さんの、赤面……ッ)
それを引き出したのは、目の前にいる彼氏。
……若干、モヤモヤするぞ。バウムクーヘンが好きってバレたときの照れ顔とは、違う表情だ。
「本渡果、ッス。……えっと、江藤さん――」
「『さん』とかやめろや。呼び捨てでいいからよ」
「……江藤は、赤城さんのこと……本当に好き、なのか?」
「は?」
江藤の眉が、不可解そうに寄せられる。
……イヤ、まぁ、それはそうだよな。
初対面の奴に、いきなり『恋人のことを本当に好きなんですか?』って訊かれたら、困るだろうさ。……俺だって、ポカンとする。
(俺、なに訊いてんだよ、マジで……)
だけど、訊かずにはいられなかった。
『――女の子でも、殴るんだね……』
赤城さんが言ってた、さっきの言葉。
それがどうしても、引っ掛かっているからだ。
江藤の態度は、どう見ても温厚さとはかけ離れている。
……正直、赤城さんとは不釣り合いだ。
それでも、江藤と赤城さんは付き合ってる。
なら、それがどうしてなのかを気にしたって……知人としては、おかしくない。
……よな?
江藤は不愉快そうに曲げた口角を。
――ニッと、吊り上げた。
そして。
「――オレ以外に、誰が鈴華のこと愛してやれるんだよ? こんな、ドがつくヘンタイのことをな?」
……あまりにも下品なことを、口にした。
ともだちにシェアしよう!