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4章[ 優しさと罪悪感 ] 1

 あれから、数日後。 (赤城さん……ッ)  俺はずっと、赤城さんのことを考えていた。  あの後、赤城さんはヤッパリ……江藤から、殴られたんだろうか。  仮にそうだとして……いったい、どれだけ殴られてしまったんだろう。  そんな、ひとりで考えたってしょうがないことばかりを、俺はずっとずっと考えていた。 (ひょっとしたら、病院とか……ッ!)  妄想の一人歩きは、いつだって最悪の事態まで考えてしまう。  行き着いた先の妄想を、頭を振ることで慌てて消し飛ばす。  不必要な考えごとを忘れるために、仕事に集中しようとした。  だけど、ヤッパリ赤城さんのことが気になって……また、考え込む。  最近はずっと、そんなことの繰り返しだ。 「本渡さん? 入力、終わってますよ?」 「はぇ……? ……あッ!」  俺は固まったように、パソコンと向き合っていたらしい。  たまたま後ろを通った後輩が、心配そうに声をかけてくれた。  不思議そうにその場を立ち去った後輩に、心の中でお礼を言っておく。 「……おい、本渡。大丈夫か? 最近、ず~っと考えごとしてるぞ?」  隣に座る同僚が、ヒソヒソ声で話し掛けてくる。  頭を掻いて、俺は曖昧な返事をした。 「ちょっと、な……」 「へ~。悩みごとか? 彼女とケンカした~とかなら、ざまぁみろって言うけどな」 「そんなことだったら、こんな女々しい感じにならねェっつの」  真里とケンカしたときは、ひたすらイライラするだけだ。こんな風にボーッとしたりしない。  しかし、今は真里相手の悩みじゃないのだ。このままでは、仕事にまで支障が出てしまう。  あまり期待をせず、俺はそれとな~く同僚に相談することにした。 「実はよォ……ずっと、心配している人がいるんだ」 「『心配』ってぇと……病気的な意味でか?」 「いや、もうちょっと表面的な感じの、肉体的な意味で」  同僚は腕を組んで「う~ん……」とか言いながら唸り始める。  どうやら、俺の相談に対して悩んでくれているようだ。 (なんだよ、コイツ。意外と優しいじゃねェか)  ちょっと感動しちまったぜ。  同僚はしばらく悩んだ後に、ふと、我に返ったかのような顔をした。 「根本的な質問だけどよ? 会いに行けない距離にいる人なのか? その、心配な人」 「行けなくは、ないけどなァ……。行っていいのか、分かんねェって言うか……どう、なんだろうなァ……?」  ――俺は赤城さんに……会って、いいのだろうか。  元はと言えば、俺がもう一度会いたいと思ってしまったがために、江藤と鉢合わせしたんだ。  もしも、赤城さんが殴られたりしたら……それは、俺のせい。 (気まずい、よな……)  言葉を濁した俺を見て、同僚はキョトンとした顔をしている。 「――いや、会えるなら会った方がよくねぇか? それが一番手っ取り早いだろ。……お前、頭で考えるより行動ってタイプだし」  一瞬だけ、まばたきを忘れてしまう。  ――なにを簡単そうに。  そう思うより先に、言葉が出た。 「そう、だよな。……そうだよな……ッ!」  このまま『気まずいから』と言って、連絡を取らないとして。  それでも俺はまた、赤城さんに会いたくなるだろう。  俺は頼もしすぎる同僚に心底感謝して、今度こそ、仕事に集中することにした。

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