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 着替え終えた赤城さんはいつも通り、シンプルなデザインの服を着ている。  肌の露出は、必要最低限。  どこにでもいる、普通の男性。 (そう、だよな……。赤城さんは、男。年上の、男だ……)  当たり前のことを、頭の中で何度も繰り返す。  さっき見た、ワイシャツ一枚の赤城さんを……。 (『エロい』とか思ったら、ダメ……だよな)  俺は小さく首を横に振り、さっき見た光景を消そうとする。 「さっきは、見苦しい恰好で……本当に、すまなかった」  コーヒーを用意してくれた赤城さんは、いつかの日と同じように、俺の正面に座った。  ソーサーに乗せられたコーヒーカップを置いてくれた赤城さんを見て、俺は大きく、首を横に振る。 「気にしないでください! 俺、寝るときとかパンツ一枚の日もあるんで!」 「そ、そう、なんだね。えっと……風邪には、気をつけてね?」 「ウス! あざっす!」  情けないほどクソすぎるレベルのフォローだ。 (赤城さんが苦笑いしているじゃないか、クソッ!)  すると赤城さんは、ついっ、と……角砂糖の入った小さなポットを差し出してくれた。 「砂糖は入れる?」 「や、ブラックで大丈夫ッス!」 「そうなんだ」  断ると、赤城さんは角砂糖を自分の方に引き寄せる。 「なんだか、恥ずかしいな……っ」  無糖の俺に対して、赤城さんは照れ臭そうに呟く。  そして、ポチャポチャと自分のコーヒーに角砂糖を放り込み始めた。 (そっか、赤城さんは甘党なんだもんな……)  だから『恥ずかしい』と言ったのだろう。  俺は引いたりしないから、気にせずジャンジャン入れてほしい。  だけど照れてる赤城さんは嫌いじゃないので、そのまま照れていても全然オッケーだ。  ソーサーに載せていたスプーンで、赤城さんはクルクルとコーヒーをかき混ぜる。  角砂糖を溶かし終え、赤城さんは俺を見た。 「それで、今日はいったい……?」  ほぼアポなし訪問をしでかし、十回以上もインターホンを鳴らした理由。  赤城さんは探るような目で、俺を見ている。 (そうだ。今日はの俺は、コーヒー飲んでくっちゃべりたくて、赤城さんの家に来たワケじゃない)  本当は、そんな穏やかな時間を過ごしたい。  だけど俺は、本題から目を逸らさない。  真っ直ぐに俺を見つめてくれる赤城さんを、俺も真っ直ぐ見つめ返す。 「たぶん、うっすら察してると思うんスけど……あの日の、あの後。……江藤とのこと、ッス」  電話での威勢はどこへやら。  本題を打ち明けた俺の声は、情けないくらいぶつ切りだ。  これでは『この話題をすることにビビっている』と、ハッキリ言ってしまっているみたいじゃないか。

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