29 / 69

4 : 7

 俺の不思議発言から、数秒。  お互いがお互いに驚きながら、しばらくの沈黙。 (お、俺、は……なにを、言ってるんだ……?)  このタイミングで、あんな言葉。 (こんなの、まるで……こ、こッ、告白じみてるじゃねェか……ッ!)  このままでは、江藤に殴られるような展開になってしまう。  事実として語弊があったのだから、それを解かなくては。 「や、えっと、変な意味じゃなくてッ! そう、男としてッ! 男として、俺は好きな人に悲しい顔させたくないな~って言うか……ッ! イヤ、彼女怒らせてグーで殴られたんで、なにを言っても説得力皆無ッスかね! ハハッ、ハハハッ!」  あまりにも。  あまりにもヘタすぎる、フォロー。  沈黙に耐えかねた俺は、なんとかマシな言葉を探して取り繕ってみる。  だけど口を開けば開くほど、バカを露呈しているような……そんな感じになってしまった。 (あ、穴があったら入りてェ! むしろ、掘るか? 穴、掘るか! いやいや、ココは赤城さんの家だ! 掘るならどっかの公園とかだろ、俺!)  頭ン中も大パニックだ!  正面に座っている赤城さんのポカンとした表情。それもあって、俺はどんどんいたたまれない気持ちになってくる。  しかし、俺の必死さが伝わったのだろう。 「……あっ、えっと……っ? もしかして、本渡君は今日……僕を、その。慰めに来て、くれた……の、かな?」  赤城さんはそう言って、いい感じの落としどころを見つけてくれた。  当然俺は、ジャンジャン乗っかる。 「そ、そんな立派なモンじゃないッスけどね! でも、だいたいそんな感じッスよ! えぇ、ハイッ!」 「やっぱりそうなんだねっ。……ふふっ」  身振り手振りでなんとか乗り切ると。  赤城さんが、クスリと笑う。 「本当に、本渡君は優しいね。……来てくれて、ありがとう」  優しすぎる言葉を添えて。 (――笑って、くれた……ッ)  悲しそうな感じじゃなくて、辛そうな感じでもない。痛々しくもないし、ガマンもしてなさそう。  ――赤城さんらしい、小さくて控えめな笑い方だ。 「そうだね。本渡君は好きな子を大切にできそうだ」 「や、はは……あざっす」  赤城さんの笑顔が見られて、嬉しい。  バカな俺でも、赤城さんを笑わせることができたなら。それは、嬉しいに決まってる。  なのに、なんでか……胸が、痛い。  ――分かりやすく言うなら、罪悪感だ。 (彼女がいるってのに、なんで俺は……あんな、口説くみてェな言い方しちまったんだ……ッ?)  赤城さんにだって、江藤という彼氏がいる。  だったら俺の発言は、不誠実極まりないってモンだ。  深い意味はなかったし、全然……江藤から赤城さんを奪おうなんて、そんな気持ちもない。  それでも俺の発言は、あんまりよくなかった。  ……だけど。 「もしかして……素直に褒められると、本渡君は照れちゃうのかな? ……ふふっ、若いね」  赤城さんは、笑っているのだ。  凄く、すごく嬉しそうに。 (よかった……)  胸の中にある、小さな罪悪感。  俺はそれを、赤城さんの笑顔で……見えなくなるまで、塗り潰した。

ともだちにシェアしよう!