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最後に見た赤城さんの表情は、悲しいものだった。
そんなの、絶対にイヤだ。
だから俺は赤城さんが気になったし、赤城さんのことが頭から離れなかった。
だけど、今日。……こうして、赤城さんの笑顔を見て。
それだけで満足は、できそうにない。
(俺、ヤッパリ……もっともっと、赤城さんと仲良くなりたい……ッ)
見ず知らずの俺を介抱してくれた赤城さんは、優しい人だ。
こうしていきなり押しかけて来た俺にも、赤城さんはコーヒーを出してくれた。
詳しい事情は分からないけど、江藤の暴力だって許してしまっている。
赤城さんは、凄く優しくて。
……凄く、寂しい人だ。
(もっと、笑顔になってほしい。嬉しくなったり、幸せだなって思ってもらいたい……ッ)
これは、恩返しだなんてキレイなものじゃない。
言ってしまえば、俺のエゴだ。俺が勝手に、赤城さんの笑顔を見たいと思っているだけなんだから。
こんな風に思える相手が、俺にとっては初めてで……。
(今までの彼女とか、真里もそうだけど……それとは、ちょっと違うんだよな……)
彼女って存在のことは、モチロン大切だ。じゃないと、付き合ったりなんかできない。
赤城さんが俺の彼女じゃないってことも、分かってる。
(なんて言うんだろうな? 『放っておけない』ってので、合ってるのか?)
難しい顔をして考え込んでしまっていたのだろう。
「本渡君? もしかして、怒らせてしまった……かな?」
赤城さんが、申し訳無さそうに委縮してしまった。
――違う!
――そういう顔をさせたいんじゃないだろ!
俺は慌てて、怒っていないとアピールをし始める。
「イヤ、いやいや! 違います! ちょっと考えごとしてて!」
「そうなの? ……もしかして、悩みごと?」
――あなたのことです。
とは、言えない。とても言えないのだ。
なのに赤城さんは、優しく微笑む。
「本渡君。その……僕は頼りないかもしれないけれど、きみより年上だ。それに、人の話を聴くのは得意だったりもする。だから、えっと……僕でよければ、話してみてくれないかな? 勿論、無理に聞き出すつもりはないし、聴くことしか、上手くはないけれど……」
笑顔が、どんどんしょぼくれた表情に変わる。
自分で言っていて、自信を喪失したのだろう。
そんなところも、なんだか……。
(――カワイイ)
そう思うと同時に、俺はひとつの答えを出した。
そして愚直すぎる俺は、その【答え】を、赤城さんにぶつけてしまったのだ。
「――赤城さん! 俺と、友達になりませんか!」
俺はいったい……たった一日で、何回赤城さんを驚かせてしまうのだろう。
しょんぼりと肩を落としていた赤城さんが、またもや驚いた顔をしている。
……俺ってホント、もっとまともにできないのかよ……ッ!
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