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二十代半ばになって。
――『友達になりませんか』とか。
そんなこと言ってダチになる奴、いるかよ?
(まぁ! ココに! いるんだけどさ!)
――一周まわって吹っ切れたぞ!
そうだよ、なにをグチャグチャ考えていたんだ、俺は!
そもそも最初から、頭を使っていい話をしようなんて思ってなかった。そんなの、俺には向いてない。
だったら、もうヤケだ。思うがままにやってやろう!
そう決心した俺は、身を乗り出して赤城さんに訴えかける。
「赤城さんは、俺がなにも知らない他人だから『男が好き』って教えてくれたんだと思います。でも俺は、今からでもなれると思うんス。……と、友達に!」
「とも、だち……?」
「そうッス、ダチです、ダチ!」
困惑したように、赤城さんが俺の言葉をそのまま呟く。
「江藤にも、そう言えばいいんスよ! そもそも俺たち、なにもやましいこととかしてないんスから!」
「それは、そう、だけど……」
「次会ったら、俺がハッキリ言います! 俺と赤城さんは、ただのダチなんだって! ……ね? それなら、こうして会ったっていいッスよね!」
少し。
……イヤ、だいぶか。
かなり、ズルい言い方をしている自覚は、ある。
赤城さんはたぶん、押しに弱い。押し売りとかをちゃんと断れるか心配になるような、そういうタイプの人。
だから、俺の言い方はズルいかもしれない。
けど、間違ったことを言っているつもりがないのも事実だ。
友達なら、普段から会ったっていい。江藤がヤキモチを妬く理由もないはずだ。
「……本当に、本渡君は……っ」
赤城さんが、俯く。
――さすがに、急すぎたか?
俺は恐る恐る、俯く赤城さんの顔を覗き込もうとした。
だけど、そうする前に。
……赤城さんが、顔を上げた。
「――優しい人だね」
口元に、手を添えて。
赤城さんは、嬉しそうに笑っている。
「僕、友達って呼べる人が全然いないから……凄く、嬉しいよ」
「あっ、え……?」
「えっと……握手とか、した方がいいのかな? それともそれは、ドラマの影響を受けすぎ?」
「や、全然、全ッ然! 握手、大いに素晴らしいです!」
手を伸ばしてくれた赤城さんの手に、手を伸ばし返す。
……前に、ちょっとだけ手汗を拭って。
俺は赤城さんの手を、ギュッと握り返す。
「本渡君と話していると、年甲斐もなくはしゃいでしまうんだ。……三十にもなって、恥ずかしいな」
「お、俺の方が恥ずかしい奴ッスよ! 赤城さんは、全然落ち着いてます!」
「そう見えるかい? じゃあ、これからもそう思ってもらえるように頑張るね」
「赤城さんはそのままで十分いい男ッス!」
これ以上落ち着きがある人になったら、ますます近寄りがたくなってしまう。友達的にそれは困る!
握手を終えて、赤城さんが手を放そうと力を抜いた。
それがなんとなく寂しかったけど、俺も力を抜いて、手を放す。
「また、遊びに来てほしいな。……兼壱も、きっと分かってくれると思うから」
「今度江藤が来るとき、呼んでください。ケンカしない程度に話し合うつもりなんで!」
「う、うん。……穏便に、ね?」
赤城さんに暴力を振るうのは断固として許せないが、一応、赤城さんの好きな人だ。
仲良くできるならしたいし、俺の言葉で改心させられそうならそうしたい。
……そんなこんなで。
こうして、俺たちは晴れて【友達】となった。
――俺は、心の中にある小さな火種に、気付かないまま……。
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