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アパートに帰宅後。
「――ッ! 緊張したァ……ッ!」
俺はグッタリと脱力し、床に座り込んだ。
あの後――握手の後。
俺と赤城さんは、他愛もない話をした。
赤城さんが特に好きなお菓子はなんだとか、自分で料理はするのかとか、真里に対する文句だとか。
どんな話をしても、赤城さんはずーっとニコニコしていた。
それが嬉しくて、俺はまた話題を振ってしまったのだ。
話していて、正直メチャクチャ楽しかった。
だけど、帰ってきて実感する。
(赤城さん相手だと、上手くいかねェなァ……!)
俺は、変なことを言っていなかっただろうか。
……イヤ、言った気がする。言った気がする、けど……変に、思われていないだろうか。
……イヤ、絶対に思われた! 思われた、けど……赤城さんは天使と人間のハーフみたいな人だから、きっと変に思わないはず。
……ンン? てことは、普通の人だと変に思われるようなことをしていたのか、俺は?
「ぐぉお、うぅうう、ッ!」
頭を抱えて、床に転がる。
赤城さんに嫌われたり、軽蔑されるのはイヤだ。そう考えると、妙な緊張感が生まれてしまう。
……しかし、だ。
(俺と赤城さんは、友達。……そう! 多少のムチャなら許してもらえる関係性!)
今日一番の収穫を思い出し、自然と口角が上がる。
「……へへ、へへへ」
一人百面相を忙しなく繰り広げながら、俺は赤城さんのことを考えた。
(家に入った時はメチャクチャビックリしたけど、アレにはきっと深い意味があったはずだ! たぶん、着替えよりも先に部屋の掃除とかしてたんだろうな、きっと!)
俺が今日、赤城さんの家に乗り込んだ時。
赤城さんは『さっきまで江藤がいた』と言っていた。
恋人が来ていて、ほぼ裸状態だったら……つまり、ヤることは決まっているだろう。
(男同士のヤり方って知らねェけど……ヤッパ、ゴムとか使うんだろうな)
そういう後始末をしていたんだとしたら、あの動揺も納得だ。
(でも、先に着替えとけばいいのに……)
ふと、江藤の言葉を思い出す。
『――笑わせんなよ、ド淫乱が』
それと同時に、ワイシャツ一枚だけを着ていた赤城さんも思い出してしまう。
(……赤城さんは、そういうこと……知らなさそう、なのにな……)
どう見たって赤城さんは、話題で下ネタを振られたら赤面しそうな。そんなイメージだ。
だけど赤城さんは、江藤とそういうことをしているんだろう。
そして、そういう行為が……江藤の言葉を信じていいのなら、嫌いじゃない、はず。
……確かに、ほぼ裸だった赤城さんは……エロかった。と、思う。
――瞬間。
「……ッ、ウソ、だろ……ッ?」
俺は、自分の体に起こった変化に気付いた。
――気付いて、しまったのだ。
「――なんで、勃起してんだよ、俺……ッ」
赤城さんの、あの姿。
それを思い出して、反応したって言うのか……ッ?
熱を持ち始めた下半身に、そっと手を伸ばす。
――一度勃起してしまったら、処理したくなるのが男ってモンだろう。
「……クソ、ッ!」
スラックスのチャックを、ゆっくりと引き下げる。
頭の中に浮かんでいるのは……ワイシャツ一枚だけを着ていた、赤城さんの姿だった。
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