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5章[ 友達とセフレ ] 1

 赤城さんに対して顔向けができないことをした、数日後。 『今晩、兼壱が家に来る予定なのだけれど、本渡君の予定は空いているかな?』  そんなメッセージが、赤城さんから送られてきた。  一瞬だけ頭をよぎったのは、赤城さんに対する罪悪感。  だけど、それは今……考えちゃ、いけない。 (赤城さんは、このメッセージを俺に送るのに……どれだけ、勇気を出したんだろ)  江藤と俺を、会わせる。  きっと赤城さんは、先に江藤から許可を取ったはずだ。  ――それが理由で、暴力を振るわれていたらどうしよう。  誰にも打ち明けてない罪悪感よりも、そっちの方が、今の俺には重要なことだ。 (俺に会えるかどうかを訊いてきたってことは……少なくとも、江藤はオッケーしたってことだよな?)  じゃないと、こんなメッセージがくるはずない。  俺はトントンと、メッセージを打ち込む。 『モチロン、大丈夫です』  言い様の無い不安を抱えつつ、俺は携帯をポケットにしまう。  いつも、就業時間が短くなったらいいのになァなんて考えるけど。  今日はいつもの比じゃないくらい、時間が経つことを遅く感じた。  * * * 「――別にいいんじゃねぇの」  赤城さんの家に着き、リビングに案内され。  我が物顔でイスに座っていた江藤は。  開口一番、そう言った。  江藤の視線は、携帯の画面に向けられている。 「鈴華とダチになりてーって話だろ? 別にいいと思うぜ? お前がいいならな?」 「は?」  江藤から飛び出てきたのは、予想外の言葉だ。  スイスイと指を動かす江藤はおそらく、ゲームをしているんだろう。  赤城さんは特になんとも思っていないのか、俺の分のコーヒーを用意してくれた。  江藤の言葉は、当然嬉しい。  ……嬉しい、けど。 「怒らない、のか?」  江藤の反応は……俺がしていた想像と、かなり違う。 (この間は、もっとキレてただろ? アレは、なんだったんだ?)  赤城さんを殴り、怒鳴り散らしていたのはなんだったのか。  江藤は態度を変えず、ゲームをしながら返事をする。 「なに勘違いしてんのか知んねーけど、オレは鈴華の交友関係なんざどーでもいーんだよ。……ただ、黙ってセフレ作られんのがムカつくってだけだ。オレの許可を取ってセフレ作んのはかまわねーんだよ」  モチロン、言いたいことは山のようにあった。  恋人の話をしているのに、なんで当然のように【セフレ】なんて単語を出せるのか。  そもそもどうして、赤城さんの友達イコールセフレという発想なのかも分からない。  というか、第一にだ。 「俺と赤城さんは、普通の友達だ。セ、セフレとか、そういうのじゃない」  声が震えたのは【セフレ】という単語を、赤城さんの前で言いたくなかったからだ。  決して、やましい気持ちがあったからじゃない。  それが誰に対する言い訳なのかは分からないけど、俺はそう思わずにはいられなかった。

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