35 / 69
5 : 2
江藤の態度は、変わらない。
「ハッ! あっそ。……別にどっちでもいーわ」
プレイしているゲームの区切りがついたのか、江藤は携帯をテーブルの上に置く。
そして、乱暴に頭を掻き始めた。
「ダチだろーがセフレだろーが、大して変わんねーし」
「変わるだろ……!」
「変わんねーよ」
テーブルの上にあるコーヒーカップを掴み、江藤は俺を睨む。
「――勘違いすんなよ、本渡。鈴華が依存してるのはオレだ」
セフレになったとしても、気にしないと言っていたくせに。
その視線は、まるで……突き刺すように、鋭い。
「お前がセフレになったところで、なにも変わんねー。鈴華が依存してるのはオレだ。……お前はその対象になれねーんだよ」
いつから江藤はこの家に来ていたのか。
出されていたコーヒーは、ぬるくなっていたらしい。
一気にコーヒーを飲み干した江藤は、それだけ言って、会話を終わらせる。
それと同時に、江藤の携帯がけたたましい音を鳴らした。
「おう、オレだ」
電話がかかってきたらしい。
江藤はイスから立ち上がり、リビングから出て行く。
その様子を、俺と赤城さんは黙って眺めていた。
「……本渡君。よかったら、座って?」
ずっと立っている俺に、赤城さんがイスをすすめる。
赤城さんは……どことなく、元気がなさそうだ。
(それも、そうだよな……)
好きな人に『セフレを作ってもいい』と言われて、落ち込まない人がいるワケない。
赤城さんはきっと、すごく繊細な人だ。そんな人なら余計に、気にならないワケないだろう。
「兼壱が、その……品のないことを言って、すまなかった」
「や、別に……」
ヤッパリ、どことなく元気がない。
(だから、俺は……ッ)
――あなたのそんな顔、見たくないんです。
そう言ってしまえたら良かったのに、今は……どうしても言えない。
だから、というワケじゃないけど。
――俺は、失言してしまった。
「――赤城さんは、マジで江藤のこと。……好き、なんスよね?」
そう言われて、赤城さんがどんな顔をするのかなんて……簡単に、想像できる。
なのに俺は、どうしても訊きたくなった。
……返事だって、分かってるのに。
「――当然だよ」
そう答える赤城さんは、笑顔を浮かべていた。
――俺があまり好きじゃない、悲しそうな笑みを。
その顔をさせてしまったのは俺だけど、江藤でもあるはずだ。
「……なにが、セフレだよ……ッ」
赤城さんがそんな相手を、作るはずない。
一途で、相手を大切にする。
そういう人のはずなのだから。
誰に言うでもなく呟いた言葉は、そのままなかったことになるはずだった。
だけど、どうやら。
「本渡君。ひとつだけ、言っておきたいことがあるんだ」
赤城さんには、聞こえてしまっていたらしい。
ともだちにシェアしよう!