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それから、週に数回。
俺は、赤城さんの家へ通うようになった。
モチロン、普通の友達としてだ。変な意味はない。
たまに江藤と会ったりもしたけど、俺と赤城さんが【ただの友達】だと認めてくれたのか、俺とも話してくれるようになった。
だからおそらく、俺が理由での暴力を赤城さんには振るっていない。……はずだ。
それでも俺は、気になることがあった。
(――なんで赤城さんは、江藤の前だと表情が暗いんだろ)
俺と、ふたりのとき。
赤城さんはよく、笑ってくれる。
俺が特にオチもない話をしても、赤城さんは小さくクスクスと笑ってくれるし。
逆に、俺が赤城さんの話を熱心に聴くと……それはそれでまた、笑ってくれた。
――だけど、江藤がいるとそうはならない。
気を遣っているのか、それとも別の理由でもあるのか。
江藤が一緒の空間にいると、赤城さんの表情はぎこちなく……それでいて、硬くなる。
(二人は両想いで、好き合ってて……付き合ってる、はず)
ケンカをしたというのなら、話しは変わってくるが……いつも暗い顔をしてるなんて、どう考えてもおかしい。
――もしかしたら赤城さんは、江藤に脅されているのかもしれない。
もう何度も、その可能性は考えた。
だけど、その度に思い出すんだ。
『あの子は、僕に【付き合ってくれているだけ】だから。……だからね? 僕は、あの子が振るう多少の暴力も、許容できる。許容しなくちゃいけないし、そうしないと……あの子に、申し訳が立たないんだよ』
寂しそうに笑った赤城さんが、自分で言っていた。
――江藤の方が、赤城さんに【付き合ってくれている】って。
だったら俺は、それを信じるしかない。……赤城さんがそんなウソ、吐くだなんて思えないから。
(本当は、もっとちゃんと……二人のこと、知りたいけど……)
だけど、それは本当に適切な【友達】の距離感なのか。
俺にはそれが、分からなかった。
……そう。俺は赤城さんとの距離感が、分からなくなっているんだ。
――俺と赤城さんは、ただの友達。
――友達が少ないと言っていた赤城さんにとって、俺は貴重な存在。
――気兼ねなく、心を許せる。……そういう存在でありたい。
『話していると、気を遣わなくていいからかな。本渡君と話すのは、落ち着く』
そう言ってくれた赤城さんを、裏切りたくなかった。
それなのに俺は……心が、揺らいでいる。
「……クソ、ッ!」
家でひとりになり、赤城さんのことを思い出すと、いつもそうだ。
赤城さんの笑顔を思い出して、優しい声を思い出す。
そうすると俺は、決まって自分を呪った。
「赤城、さん……ッ」
――赤城さんのことを考えて、いちいち興奮してしまう。
――そんな、自分自身のことを。
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