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6章[ 自覚と破局 ]
ここだけの話だが。
「ねぇ、果? 今日も……シない、の?」
──真里と、セックスレスだ。
俺の家に、真里は毎週末、来ている。
そのたびに、お互いの気持ちが向いたら……俺たちは、セックスをしていた。
だが、ここ最近。……具体的に言うと、俺が赤城さんと知り合ってから。
俺と真里は、セックスをしていない。
「あー、うん。……シない」
俺だって、普通の成人男子だ。性欲は人並みにある。枯れちゃいない。
だが、最近は真里とシなくても……持て余した性欲を一人で発散している。
――赤城さんのことを、考えながら。
真里はほっぺたを膨らませて、俺の背中をグリグリと指で押してきた。
「もぉ~っ。女の子が誘ってるのに断るとか、フツーにありえなくない?」
「気分じゃないんだよ。……ごめんな」
ぼんやりとテレビを見ながら、真里に返事をする。
真里は未だにご機嫌斜めなまま、俺に話しかけてきた。
「ねぇ果。次の休み、どこか遊びに行かない? 遠出しよ、遠出っ!」
「え? あー……そう、だな」
最近、真里とは家で会ってばかりで……デートらしいデートはしていない気がする。
(この間、赤城さんと行った喫茶店で……。赤城さん、ケーキ食べて顔に生クリームつけてたな……)
ふと、そんなことを思い出す。
赤城さんとは時々、外で食事をしたりした。
なんとなく、赤城さんと一緒なら高級店とかの方がいいのかとか思っていた。
けど、赤城さんは意外とチェーン店とかが好きらしい。その証拠に、牛丼屋さんとか、ハンバーガー屋さんに誘われて行ったりもした。
そんなことをボーッと考えていると、真里がまた、俺の背中をつつき始める。
「もうっ! また考えごと? ……そんなに、仕事忙しいの?」
恋人である真里と、ひとつ屋根の下。
一緒にいるというのに、俺は上の空。
仕事中も、家にいるときも……俺は最近、赤城さんのことばかりを考えている。
(江藤と赤城さんは、デートとかしてるのかな……)
年上の、友達。しかも、あんなにキレイな人だ。
それでいて彼女である真里よりも、女の子らしいことをするときがある。
例えば、嬉しそうに甘い物を食べる表情。
実は、料理が得意なのではなく、趣味として好きってところ。
想像通り、好きな人や友人にはついつい尽くしてしまうタイプだということ。
この前、普通の色ペンを買ったはずが匂いのついているペンを買ってしまって、使うのが恥ずかしい……など。
(そういうの、江藤も……知ってるん、だよな)
それらを知るたびに、もっと。
――赤城さんのことが、気になっていく。
――江藤のことが、羨ましいと思えてくる。
――真里のことを、一番に考えられない。
自分がいかに最低なことをしているのか、自覚をしているつもりはあった。
それなのに俺は……どうしたって、赤城さんのことを考えてしまうのだ。
名前のつけられない、感情を背負いながら。
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