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 上の空で居続ける俺に、真里が痺れを切らす。 「果っ!」 「あっ。わ、悪い、真里……」  露骨に、真里が拗ねたような顔をしている。  その顔と声を聞いて、俺は申し訳なくなった後、きちんと謝罪の言葉を口にした。  ……最近、これがいつもの流れになっている。 (赤城さんは、真里みたいに嫉妬とかするのかな……)  大人な赤城さんは、なんとなくそういうことはしなさそうなイメージだ。  まぁ、俺も真里も大人と言えばそうなのだが……真里の嫉妬深さは異常だな、ウン。  それに比べて赤城さんは、大人らしい落ち着きと優しさを兼ね備えたスーパーな大人で――。 (……って! また赤城さんのこと考えてるじゃねェか!)  俺はブンブンと、首を横に振る。  隣で真里が拗ねてるんだ。彼氏として、気にするべきなのはそっちだろ。  テレビから視線を外して、真里に向き直る。  そうすると、真里は俯いていた。 「果、最近冷たいよね。……もしかして、この間のこと……まだ、怒ってるの?」  思いつくのは、グーパンされた時のこと。  赤城さんと出会ってから二ヶ月くらい経ってるから、必然的にグーパンされたのも二ヶ月前ってことになる。 「イヤイヤ! そんな前のこと根に持つワケないだろ? 俺はそこまで小さい男じゃねェっつの!」  努めて明るく言ったつもりだ。  重苦しくなった空気をどうにかしようとしたのに、あまり効果はなかったらしい。 「じゃあ、なんで最近アタシに触ってくれないの?」 「だからさっきも言っただろ? 気分じゃないんだって。……気分じゃないのに抱いたりする方が、失礼だろ」 「そうかもしれないけどさ……ケンカする前は、毎週シてたじゃん」  マジかよ。俺、性欲の権化みたいな奴じゃねェか。  しかし思い返してみると、確かにそうだったかもしれない。  ……認めよう。俺は性欲の権化だ。 「ホントに怒ってないって。気にするなよ、な?」  落ち込んだような顔をされると、どうしたって弱い。  なんとか真里の機嫌を直そうと頑張っている、その時。  重苦しい空気を跳ね返すかのように、俺の携帯が振動した。  誰かからメッセージでも受信したんだろう。  だけど、今はその確認をするよりも先に真里を安心させ――。 「――真里? なにして……」  どうにか誤解を解こうと、真里に向き合っていたのに。  真里は突然……メッセージを受信した俺の携帯を、手に取ったではないか。  ――非常に、イヤな予感がするぞ。  ――そしてだいたい、こういうのは当たる。  真里は俺の呼び掛けに反応せず、勝手に俺の携帯を操作し始めた。  そして……イヤな予感ってやつを、見事に的中させる。 「――果。この人、誰……っ? この【赤城鈴華】って人、誰よ……っ!」  ――男の人だ。  そう言って、すぐに信じてもらえるような名前じゃないってことは……。  ――【赤城鈴華】さん、本人のお墨付きだったりする。

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