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 携帯の画面に映し出されているのは、赤城さんのフルネーム。 『【鈴華】って、女の子みたいな名前だよね』  赤城さん本人が、そう言っていたのだ。  だったら……思い込みが激しくて嫉妬深い真里が見たって、そう思うに決まっている。 「ねぇ、果、答えてよ! この人誰なの? それに、このメッセージもなんなのよ!」  人のプライバシーを勝手に覗き見している行為については、とりあえず口を挟まない。  ……厳密に言えば、挟める状況じゃなかった。 『うちに忘れ物があるけれど、今度はいつ会えるかな? それと、昨日はケーキを持って来てくれてありがとう。とても美味しかったです』  【鈴華】という名前の人から、メッセージが届いて。  しかもその内容が、そんな感じで。  ほぼ毎週ヤっていた俺たちが、今はセックスレス。  ――となったら、導き出される答えはひとつだけだろう。 「私とは出掛けなくて、この人とは平日も会ってるってこと?」 「違う。誤解だ、真里――」 「最低っ!」  力任せに、携帯が投げられる。  慌ててキャッチしたものの、真里の怒りはそんなことじゃ収まらない。 「ねぇ、果。アタシのこと、好きじゃなくなっちゃったの? この【鈴華】って人の方がいいの?」 「だから違うって! その人はおと――」 「おかしいと思ったのよ! 最近ずっと、一緒に居ても上の空だったじゃない! この人のこと考えてたんでしょ? アタシより、この人の方が好きなんでしょう!」  誤解をしているけれど、ところどころの指摘が正しい。  赤城さんは男だ。  だけど、上の空になって赤城さんのことを考えていたのも事実。  だけど真里は、不安になっている。  まずは落ち着かせて、それで……。 (ちゃんと、真里に『好きだ』って言わないと――)  そこまで考えて、ふと……声が聞こえた。 『――本渡君』  ――赤城さんが、俺を呼ぶ声。  モチロン、こんなのは幻聴だ。この部屋に赤城さんはいない。  それなのに、そうとは分かっているはずなのに。  ――思わず、言葉が詰まってしまった。 (なんで、赤城さんが……ッ?)  早く、真里に『好きだ』と言わなくては。  このままでは、ずっと誤解されたままだ。  そうと分かっているのに、なんでか口が、動かない。 「ねぇ、果! なんとか言ってよ! アタシのことが好きって、ハッキリ言ってよっ!」  今にも泣き出しそうな顔をして、真里が叫ぶ。  ――応えなくては。  ――きちんと、気持ちを。  そう思い、俺はなんとか……唇を、動かした。 「――ごめん」  真里が、驚いたように俺を見ている。  絞り出した言葉は、部屋の中で静かに、消えた。 (……え?)  俺は今、ちゃんと……真里に『好きだ』と、言うつもりだったのに。  なのに……どう、して。  ――勝手に、謝罪の言葉が出てきたんだろう。

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