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言うつもりのなかった言葉に、俺たちはふたり揃って驚いている。
だけど、ここで最も驚くべきなのは……当然、真里だ。
「それは、どういう意味の謝罪なの……?」
どうして、謝罪の言葉が出てきたのか。
そんなの、俺にも分からない。
「今、の……は、ッ」
こんなことを言ったら真里に殴られるかもしれないが……たぶん、真里より俺の方が驚いている。
体を小刻みに震わせた真里が、ジッと俺を見上げた。
「ねぇ、果。……果にとって、その【赤城鈴華】って……なんなの?」
「赤城さん、は……ッ」
そんなこと、俺にだって分からない。
いつだってその人のことばかり考えて、そのたびに喜怒哀楽して。
名前をつけちゃいけないって、グチャグチャした感情を押し込め続けた。
俺だって、最近ずっと。真里が気にすることと同じことを、考えているんだ。
――赤城さんは、俺にとってなんなのだろう。
――俺は、赤城さんにとってどんな人なんだろう、と。
(ただ、俺は……赤城さん、に……ッ)
初めは、純粋に……いい人だと思った。
泥酔してぶっ倒れていた見ず知らずの俺を、わざわざ自分の家まで連れて行って、介抱してくれたんだ。……いい人じゃないワケ、ない。
その優しさに報いたいと、そう思っていたのも確かだった。
だけど、それ以上に……あの人の笑顔を見ると、嬉しくて。
――また会いたい。
――会って、赤城さんをもっと知りたい。
いっぱい笑ってほしいし、悲しい顔はしないでほしい。
(俺は、赤城さんを……幸せに、したくて……ッ)
俺は赤城さんに助けてもらった。
そのお礼に、俺も赤城さんを……助けたい。
そんな正義感からの行動だったら、どれだけ良かったんだろう。
(あぁ、そっか。俺、ヤッパリ……)
さっき、真里に言ってしまった『ごめん』の意味。
その意味は、こういうことなんだ。
「俺にとって、赤城さん、は……ッ」
不安そうな真里の顔を、見ていたくない。
きっと、俺は今から……真里を、泣かせる。
そして、怒らせてしまうんだろう。
(真里、本当に……ごめん)
だけど、どうしたってそれ以上に。
――俺は……赤城さんのことが、大切なんだ。
「――俺は、赤城さんが好きなんだ。真里よりも、誰よりも……一番、大切にしたい」
いつだって俺は、赤城さんが笑顔になってくれたら嬉しいって……そう、思っていた。
その気持ちが、いつから恋に変わったのかは……分からない。
『いきなり知らない場所にひとりで、不安だっただろう』
――もしかしたら……初めて笑ってくれた、あの時から。
――俺は赤城さんが、気になって仕方なかったのかもしれない。
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