42 / 69

6 : 4

 言うつもりのなかった言葉に、俺たちはふたり揃って驚いている。  だけど、ここで最も驚くべきなのは……当然、真里だ。 「それは、どういう意味の謝罪なの……?」  どうして、謝罪の言葉が出てきたのか。  そんなの、俺にも分からない。 「今、の……は、ッ」  こんなことを言ったら真里に殴られるかもしれないが……たぶん、真里より俺の方が驚いている。  体を小刻みに震わせた真里が、ジッと俺を見上げた。 「ねぇ、果。……果にとって、その【赤城鈴華】って……なんなの?」 「赤城さん、は……ッ」  そんなこと、俺にだって分からない。  いつだってその人のことばかり考えて、そのたびに喜怒哀楽して。  名前をつけちゃいけないって、グチャグチャした感情を押し込め続けた。  俺だって、最近ずっと。真里が気にすることと同じことを、考えているんだ。  ――赤城さんは、俺にとってなんなのだろう。  ――俺は、赤城さんにとってどんな人なんだろう、と。 (ただ、俺は……赤城さん、に……ッ)  初めは、純粋に……いい人だと思った。  泥酔してぶっ倒れていた見ず知らずの俺を、わざわざ自分の家まで連れて行って、介抱してくれたんだ。……いい人じゃないワケ、ない。  その優しさに報いたいと、そう思っていたのも確かだった。  だけど、それ以上に……あの人の笑顔を見ると、嬉しくて。  ――また会いたい。  ――会って、赤城さんをもっと知りたい。  いっぱい笑ってほしいし、悲しい顔はしないでほしい。 (俺は、赤城さんを……幸せに、したくて……ッ)  俺は赤城さんに助けてもらった。  そのお礼に、俺も赤城さんを……助けたい。  そんな正義感からの行動だったら、どれだけ良かったんだろう。 (あぁ、そっか。俺、ヤッパリ……)  さっき、真里に言ってしまった『ごめん』の意味。  その意味は、こういうことなんだ。 「俺にとって、赤城さん、は……ッ」  不安そうな真里の顔を、見ていたくない。  きっと、俺は今から……真里を、泣かせる。  そして、怒らせてしまうんだろう。 (真里、本当に……ごめん)  だけど、どうしたってそれ以上に。  ――俺は……赤城さんのことが、大切なんだ。 「――俺は、赤城さんが好きなんだ。真里よりも、誰よりも……一番、大切にしたい」  いつだって俺は、赤城さんが笑顔になってくれたら嬉しいって……そう、思っていた。  その気持ちが、いつから恋に変わったのかは……分からない。 『いきなり知らない場所にひとりで、不安だっただろう』  ――もしかしたら……初めて笑ってくれた、あの時から。  ――俺は赤城さんが、気になって仕方なかったのかもしれない。

ともだちにシェアしよう!