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 真里の瞳が、驚きによって見開かれる。 「うそ、よね? そんな、だって……アタシたち、復縁して……っ」  カタカタと、真里が震えていた。  その体を抱き締めてあげる権利を、俺は持っていない。  ――今さっき、捨ててしまったのだ。 「ごめん、真里。真里のことが嫌いになったとか、愛想が尽きたとか、そういうのじゃなくて。……ただ俺が、最低な奴だってことは……間違って、ない。本当に、ごめん」  許してほしいと思っての謝罪じゃない。  許されなくていいし、いっそ思い切り殴ってもらいたい。  誰のせいでもない。これは、俺が勝手に赤城さんを好きになってしまっただけだ。  ……当然、赤城さんも悪くない。  だけど。  最低な俺でも、ひとつだけ。 「――最低っ!」  バチッ、と。  真里が俺に、平手打ちをかます。  鋭い痛みが顔に走って、一瞬だけ息が詰まった。  ボロボロと大粒の涙をこぼした真里が、自分の荷物を持って部屋から出て行く。  慌ただしい足音を鳴らして、真里がアパートから出て行った。 「い、ってェ……ッ」  ほっぺたに手をあてると、じんわりと熱を感じる。  当然の報いだし、むしろまだまだぬるいくらいだろう。  そんな俺が、なにかを望んでいいとは思わないけれど。 「真里を、傷つけたくは、なかったな……」  自業自得だと。お前が悪いと言われても。  そんな最低な俺でも、たったひとつそれだけは。  ……願わずに、いられなかった。  * * *  何度も通い慣れた道に出る。  しっかりと覚えた道を、順番通りに進んで行く。 (ここを曲がって、そして真っ直ぐ行けば……)  見慣れた、ひとつの建物がある。  小さい一軒家。一括で支払いを終えて購入した家だと、持ち主は言っていた。  その家のインターホンを、俺はもう何度、押しただろう。  ――もう、押せなくなるかもしれない。  そう思ったら、こんな動作にも意味がある気がするだなんて。 (なにを言っているんだ俺は。詩人か? 文豪気取りか?)  ……まぁ、笑えはしないけど。  インターホンを押す指は、震えてはいない。  だけどボタンは、いつもより重く感じた。  しばらくして、扉の向こうから足音が聞こえる。  そして……扉が、開かれた。 「――本渡君?」  家主が、不思議そうな顔をして立っている。  ――あぁ、好きだ。  そんなことを考えて、へらりと笑みを浮かべる。  ……猪突猛進? もっと考えて行動しろ? 展開が早すぎるって? (――そんなの、俺が一番分かってるっての!)  恋心を自覚して、真里にビンタされて……ほっぺたをジンジンさせながら、向かった先は想い人の家。  思い立ったが吉日って言うだろ? つまりそれだよ、そうであってくれ。  後先考えずに、行動する。  ――それが俺なんだから、仕方ないのだ。 6章[ 自覚と破局 ] 了

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