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眼中にない相手から、いきなり告白されて。
突然そんなことを訊かれて、赤城さんが戸惑うのもムリないだろ。
「赤城さん、教えてください。……赤城さんは、どんな人が好きなんスか?」
明らかに、赤城さんは戸惑っている。
だけど、ひとつずつ処理していこうと思ったのだろう。
「あ、えっと。……ありきたりかも、しれないけど……優しい人、かな」
俺の問いに、赤城さんは答えた。
その答えを聞いて、俺はどうしたって腑に落ちない。
なぜなら……。
「――江藤は優しいんですか?」
腕の中にいる赤城さんが、ビクリと体を震わせた。
赤城さんはそこそこの頻度で、江藤から暴力を振るわれているはずだ。
そんな相手が『優しいのか』と訊かれて、素直に頷けるワケないだろう。
「……本渡君、落ち着いて? なにがあったのかは分からないけれど、きっと気が動転しているんじゃないかな。……頬の手当てをするから、この手は――」
赤城さんが、露骨に話題を変えた。
いつもと同じ、大人の余裕。
落ち着いていて、涼やかで……誰のことも傷つけたくない、赤城さんだ。
――だからきっと、赤城さんにとって俺は……悪人だ。
「俺、彼女と別れてきました」
「え――」
「本気なんです。本気で、赤城さんが好きなんスよ」
さすがの赤城さんも、すぐには言葉が出てこないのだろう。
抱き締められたまま、絶句している。
しかし、思った以上に赤城さんは落ち着いているらしい。
「――すまない」
ポツリと、呟く。
告げられた言葉がどういう意味なのか、すぐには分からない。
「それは、なにに対する謝罪……ッス、か?」
「きみから彼女を奪ったこと。きみに、悪影響を与えてしまったことに対してだ」
気付けば、赤城さんは自分の腕をギュッと、握っていた。
「僕はきみに『男を好きだ』と言った。それはきっと、きみにとって初めての告白だったんじゃないだろうか。だから、変に意識させてしまったんだろう」
悪いのは、赤城さんじゃない。
俺が赤城さんを好きになったのは、そういう理由じゃないんだ。
なのにどうして、赤城さんは謝るのだろう。
それはヤッパリ……赤城さんが、優しい人だから。
「違います。俺は、赤城さんが本気で好きなんス。俺の気持ちを、勝手に否定しないでください」
「駄目だよ、本渡君。きみはこっち側じゃ――」
「俺には望み、ありますか」
俺を振り返った赤城さんと、目が合う。
いつもどこか寂し気な瞳は……悲しそうに、揺れていた。
――そんな顔をさせたいワケじゃ、ないのに。
そう思うことすら、俺はきっと……許されないのだろう。
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