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8章[ 真相と離別 ] 1

 ――簡単に、忘れることができたなら。 (苦労なんて、したりしないのになァ……?)  仕事の休憩時間。  俺はぼんやりと、赤城さんのことを考えていた。  あれから、連絡はとっていない。……とれるはずが、なかった。  それなのに、赤城さんは俺に連絡をくれる。メッセージを送ってくれたり、電話をかけてくれたり。  ただ、それに応じる勇気が……俺には、無かった。 『会ってもう一度話がしたい』  赤城さんから送られてきたメッセージを、返事なんかできるはずもないのに……ボーッと眺める。 (赤城さんは、いい人だ)  ムリヤリ、キスをした。  それ以上に……俺は、赤城さんを抱いたんだ。  それだけでは飽き足らず……俺は、赤城さんの恋人に対する気持ちを否定した。  なのに……赤城さんはそんな俺にも、慈悲をくれる。 (だから、諦められないんだよなァ……)  携帯から目を逸らし、俯く。  未だに、家でオナニーをするときは赤城さんのことを考えている。  あの日の赤城さんとの行為を思い出して、自慰行為に耽っているなんて……ヤッパリ、最低な男だ、俺は。 (……って! 職場だぞ!)  休憩時間といえど、ここは職場だ。  淫らな妄想を一度断ち切り、俺はデスクに置いていたコーヒーを一気に飲み干した。  * * *  就業時間を終え、俺は一人、夜道を歩く。  仕事が終わったら、最近はよく赤城さんの家に行っていた。  だけど今は、そんなことしない。  ……決して、会いたくないワケじゃ、ないけど。  大前提として、俺には会う資格がない。 (コンビニ行って、酒でも買うか)  なんだか、赤城さんと初めて会った日を思い出してしまう。  あの時も俺は、酒に逃げていたっけ。  そんなことを考えながら歩いていると、ポケットにしまいこんでいた携帯が振動した。  この音は、電話だ。 (もしかして、また?)  赤城さんがまた、連絡をくれたのかもしれない。  会うことはできなくても、名前が表示されているのならついつい見てしまう。……女々しいって? うるせェ、俺が一番分かってるっつの。  すかさず俺は、ポケットから携帯を取り出す。  ――そして、表示されていた名前を見て驚いた。 「――江藤?」  江藤相手に、赤城さんとはただの友達だという宣言をして、数日後。  俺は、江藤と連絡先を交換した。  だけど、実際にメッセージのやり取りをしたことなんてなかったし、モチロン電話もしたことがない。  だからこそ、俺は驚いたのだ。 (どう接していいのか、分かんねェ……)  あれだけ『セフレじゃない』と豪語したくせに、結局俺は赤城さんを抱いた。  気に食わないが、江藤の言った通りの展開になったんだ。  携帯をしっかりと握り、俺は……。 「――はい」  江藤からの着信に、応答した。

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