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 江藤と初めて通話をして、数十分後。 「――よう、本渡」  ──俺はなぜか、馴染みのないキャバクラなんてところに来ていた。  ……どうしてこうなったのか、気持ちの整理をするためにも説明させてくれ。  遡ること、数十分前。  * * * 「――はい」  江藤からの着信に応じた俺は、強張った声でそう挨拶をした。  するとやけに、画面の向こう側がウルサイ。 『おっ、本渡だな? お前、出るのおせーんだよ』 「それは、悪かったな。……江藤、今どこにいるんだ? なんかウルサイぞ?」 『あ? パチンコに決まってんだろ』  なるほど。この騒がしさはそういうことか。  パチンコ店になんて行ったことはないが、なんとなくイメージはできた。  江藤は店から出るところだったのか、店員と話し始めている。 「おい、江藤? 間違い電話かなにかか?」  正直、江藤とはあまり話したくない。  だけど応じなかったら応じなかったで、赤城さんに八つ当たりされても困る。だから、応じただけだ。……いや、ツンデレかよ。違うぞ、マジで。  江藤は店員との会話を終えたのか、パチンコ店から出たらしい。辺りが少しずつ静かになっていく。 『間違えてねーよ、バーカ。お前、今日はヒマか? ヒマだよな?』 「は? なんでそんなこと決められなくちゃ――」 『鈴華から貰った金で、パチンコ大勝ちしたんだよ。今日のオレは気分が良くてな? せっかくだし、お前と親睦でも深めようかって思ってよー』  いちいち、江藤の話は癇に障る。 (赤城さんから、金を貰ってるって?)  いい年した大人が、なにをやっているんだ。  しかも、相手は恋人だぞ。それで、貰った金でパチンコだって?  ――ふざけんな。  そう言おうとしたが、それよりも先に江藤が言葉を続ける。 『そんなワケでよ? オレ行きつけの店で待ってるわ。住所とか、メッセージで送っとくから早く来いよー』 「江藤、待て! 俺は行くなんて――」 『じゃあ、あとでなー』  プツッ、と。  一方的に通話が終えられた。 「……ッざけんなよ、マジで……ッ」  行きたいなんて気持ち、当然あるワケがない。  携帯を叩きつけたくなったが、そんなことをしたって俺が困るだけだ。  握っていた携帯が、振動する。江藤が、店の住所でも送ってきたんだろう。 (誰がお前の誘いになんか乗るかよッ! ……って、言いてェところだけど)  送られてきた店名を見て、気が変わった。  ――それは、同僚が時々話しているキャバクラ店の名前だったからだ。 (赤城さんから貰った金で、キャバクラにも行くのかよ……ッ!)  このままでは、苛立ちが治まらない。  まるで売られたケンカを高額で買い取ったような、そんな気分。  俺はイライラしながらも、江藤に指示された店へ向かうことにした。

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