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江藤は両サイドにキャバ嬢を抱き寄せて、豪快に笑っている。
「ハハッ! どうしたんだよ、本渡? 今日はオレが払ってやるから、ジャンジャン頼めよな!」
「きゃ~! 兼ちゃん、カッコいい~!」
「ボトル、入れてもいいかな~っ?」
「おう、ドンドン入れろ!」
江藤にすり寄るキャバ嬢が、飲み物をオーダーした。
俺はその光景も面白くなくて、目を逸らす。
「オイ、本渡? ここに来てその態度はないだろ? せっかく共通の知り合いから貰った金なんだ。楽しまないと損だぜ?」
――共通の、知り合い。
――赤城さんのことだ。
俺は上機嫌そうな江藤をギロリと睨み、低い声で呻く。
「お前、恋人から貰った金でパチンコして……それでキャバクラ通うって、どういう神経してんだよ、マジで」
江藤を囲んでいるキャバ嬢の表情が強張ったけど、そんなことどうだっていい。
江藤は先に頼んでいた酒をグイッと呷り、俺を見た。
「……ぷはっ! お前、変なこと訊くんだな? 人から貰った金なら、それはもうオレの金だろーが。お前の給料だってそうだろ? 会社の偉い奴から貰った金は、その時点でお前の自由にできるじゃねーか。それこそ、ギャンブルとか女とか……な?」
ニヤリと、江藤は笑う。
そんなの、屁理屈以外のなんでもない。
テーブルの上に並ぶお菓子をつまんで、江藤は俺を見続ける。
「つーか、お前さ? やたらと鈴華に肩入れするよな? 前はセフレじゃねーとか言ってたけど、もしかして惚れてんのか? ハハハッ!」
キャバ嬢を両腕に抱いて、江藤はゲラゲラと笑った。
――こんな奴より、俺の方が絶対……赤城さんのことが、好きに決まってる。
そう思うと同時に、俺は江藤に宣戦布告した。
「――だったら、なんだよ」
豪快に笑っていた江藤が。
――ピタリと、動きを止めた。
「そうだよ。俺は、赤城さんが好きだ。お前みたいな奴からは引き離したいし、俺を選んでほしい。俺は、赤城さんを幸せにしたいって本気で思ってる」
修羅場が勃発したと、キャバ嬢は気付いたんだろう。
江藤に寄り添っていたキャバ嬢二人が、顔を見合わせている。
だが、ヤッパリどうしたって俺にはそんなことどうだっていい。
そして……江藤にとっても、どうだっていいことだ。
「――それ、本気で言ってんのかよ」
楽し気に歪んでいた表情が、一変。
初対面の時に感じた、冷たい印象。
それを全身から撒き散らし、江藤は俺を、ギロリと睨んだ。
――正直言うと、気圧される。
――だからと言って。
「本気だっつってるだろ」
引いてやるつもりは、微塵も無かった。
俺たちは互いに睨み合い、口を閉ざす。
しかし、その間を切り裂いたのは……。
「――ふっ、ハハハッ! ハーッハハハッ!」
――豪快に笑い出した、江藤だった。
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