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 ――なにが、可笑しいんだ?  天井を見上げて笑う江藤の考えが、まるで分からない。  しかし、俺の疑問はどこ吹く風。  江藤はひとしきりゲラゲラ笑った後、俺の方に視線を戻した。  そして、またもや俺を苛立たせるようなことを言い放つ。 「鈴華のことを? 幸せにしたいって? あのド淫乱のクソマゾヤローのことを? いかにもノンケみてーな顔したノーマルくせーお前がか? ……フハハッ! これは傑作だな! ヒーッ、腹が痛ぇ! ヒャハハハッ!」  またもや、江藤はゲラゲラと声を上げて笑い始める。  口を挟もうと、身を乗り出す。  だが、江藤はまだ話足りないらしい。 「いいか、本渡。ダチとして教えてやるよ。……あぁ見えて鈴華はな、とんでもねードスケベヤローなんだよ」 「黙れよ……ッ!」 「あんな『性欲なんか持ってませ~ん』って顔しながら、ウケるだろ? アイツ、オレがちょっと甘い声出して頼めばどんなことでもやるマゾ豚なんだぜ?」 「黙れっつってんだろッ!」  聞きたくない。  赤城さん本人以外から、赤城さんの話を。  ましてや、恋人であるはずの男からなんて……ッ! 「まぁ、目の付け所はいーんじゃねーの? 性玩具としてはかなり優秀だぜ、鈴華は。付け入る隙だらけだったから、オレみたいな奴に引っ掛かってカワイソーって感じだけどな、マジで」  またひとつ、江藤がテーブルに並んだお菓子をつまむ。  ――俺はいつまで、コイツの話を聞いていなくちゃいけない……ッ? 「いいこと教えてやるよ。アイツは『味方だ』とか『愛してる』って言っとけば、簡単にケツを出すぜ?」  ――頭を、鈍器で殴られたような。……そんな、感覚。 「……は、ッ? なんだよ、それ……ッ」  俺の捉え方が、間違っているのかもしれない。  今の……江藤の言い方じゃ、まるで……ッ。 「――江藤は、赤城さんのこと……好き、なんだよな……ッ?」  オーダーの入った酒が、テーブルに運ばれてきた。  キャバ嬢はそれを、すぐに俺と江藤に振る舞う。  グラスを受け取った江藤はすぐに酒を飲み干し、若干赤くなった顔で……サラリと、答えた。 「――お前、マジで面白い奴だな? オレが男を本気で好きになるワケねーだろ」  今度は、冷や水を浴びせられたような。  そんな、感覚。 (ウソ、だろ……ッ?)  仮に、江藤の言う通り……赤城さんが、淫乱だったとしよう。  だけどそれは、好意のある相手だから受け入れたんじゃないのか?  俺のことを受け入れてくれたのだって……俺のことを、嫌っていなかったからに決まってる。 『あの子は、僕に【付き合ってくれているだけ】だから』  赤城さんの言葉を、思い出す。  そして、江藤の言葉。 『アイツは『味方だ』とか『愛してる』って言っとけば、簡単にケツを出すぜ?』  そんな。  こんなのって……ッ。 (――あんまりじゃないか……ッ!)  赤城さんと、江藤の関係性。  その本質を知りたいと、思ってはいたけれど。  ――それはあまりにも、残酷だった。

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