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9章[ 告白とスタート地点 ] 1

 赤城さんに、許してもらえるとは思ってない。  何度も『話がしたい』と言われていて、その内容がどんなものなのか……正直、想像がつかなかった。  優しい赤城さんが、俺をどう思っているのか。  怖くて、知りたくなくて。  それでも俺は、赤城さんの家に向かって、走り続ける。  ――責められるかもしれない。  ――本当はとっくに、嫌われてる可能性だってある。 (それでも会いたいなんて、イカレてるよな、ホント……ッ)  すっかり憶えてしまった道を走って。  見覚えがあるなんてどころじゃない家を見つける。  するとそこに、誰なのか一発で分かってしまう後ろ姿を見つけた。 「――本渡君?」  タイミングが良かったんだろう。  俺がここに来たのと、赤城さんが帰宅したのは、同時だったらしい。  その証拠に、赤城さんは玄関にカギを差し込んでいるところだった。 「なんで、ここに……?」  息を整えながら、赤城さんを見る。  ――言いたいことがありすぎて、なにから話せばいいのか分からない。  鍵を開けた赤城さんが、扉を開ける。 「えっと。中に、入る?」 「赤城さん……ッ。もっと、危機感持ってください……ッ」 「『危機感』? ……あ、そ、そっか。えっと、ごめんね」  躊躇いなく俺を家の中に招こうとしている赤城さんを見て、注意をした。  一応俺は、赤城さんを襲った相手だ。そこらへんは警戒してもらわないと困る。  ……警戒しないでくれたのは、ちょっとだけ嬉しいけど。  赤城さんは一度、扉を閉める。 「もう、会ってくれないかと思っていた」  ――どうして。  仕事用のカバンを持った赤城さんが、俯く。  ――どうして、そんなに悲しそうな顔をするんスか。  俺はこの前、赤城さんを襲った。  赤城さんの信頼をぶち壊して、関係性をグチャグチャに引っ掻き回したんだ。  それなのに、赤城さんは『会えないかもしれない』と思って、落ち込んでくれている。  ――その様子を見て、落ち着いてなんていられなかった。 「――江藤に、赤城さんと二度と関わらないよう約束させました」  俯いていた赤城さんが、勢い良く顔を上げる。 「俺が勝手に、江藤と約束を取り付けたんです。俺が、赤城さんと会ってほしくなくて……江藤に、お願いしたんスよ」  赤城さんに、一歩だけ近付いた。  俺が近付いても、赤城さんは逃げない。  そんなことよりも、言われていることの意味が分からないと言いたげだ。 「赤城さん、教えてください。赤城さんと江藤の、本当の関係」 「それ、は……っ」 「じゃないと俺は、赤城さんになにをしてあげられるのかが分からないんスよ……ッ」  歩いて、距離を詰める。  赤城さんの悲しそうな顔は、もう、何度見ただろう。 「僕と、兼壱は……っ」  小さく、赤城さんの体が震える。  ――『恋人だ』って、ハッキリ言わない。  だから二人の関係は、なにかがおかしいんだ。 「教えてください、赤城さん。……俺は、ふたりにどんなことがあったとしても、赤城さんを嫌いになったりしない」  細い腕を、力を入れずに掴む。 「全部聞いたうえで。……そのうえで、もう一回。俺に、告白させてくれませんか?」  赤城さんの顔が、どんどん青白くなっていく。  その理由は、まだ分からないけど。 「――僕は、本当に……酷い男、なんだよ……っ?」  今にも泣き出してしまいそうなんだってことだけは、よく分かった。

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