58 / 69
9章[ 告白とスタート地点 ] 1
赤城さんに、許してもらえるとは思ってない。
何度も『話がしたい』と言われていて、その内容がどんなものなのか……正直、想像がつかなかった。
優しい赤城さんが、俺をどう思っているのか。
怖くて、知りたくなくて。
それでも俺は、赤城さんの家に向かって、走り続ける。
――責められるかもしれない。
――本当はとっくに、嫌われてる可能性だってある。
(それでも会いたいなんて、イカレてるよな、ホント……ッ)
すっかり憶えてしまった道を走って。
見覚えがあるなんてどころじゃない家を見つける。
するとそこに、誰なのか一発で分かってしまう後ろ姿を見つけた。
「――本渡君?」
タイミングが良かったんだろう。
俺がここに来たのと、赤城さんが帰宅したのは、同時だったらしい。
その証拠に、赤城さんは玄関にカギを差し込んでいるところだった。
「なんで、ここに……?」
息を整えながら、赤城さんを見る。
――言いたいことがありすぎて、なにから話せばいいのか分からない。
鍵を開けた赤城さんが、扉を開ける。
「えっと。中に、入る?」
「赤城さん……ッ。もっと、危機感持ってください……ッ」
「『危機感』? ……あ、そ、そっか。えっと、ごめんね」
躊躇いなく俺を家の中に招こうとしている赤城さんを見て、注意をした。
一応俺は、赤城さんを襲った相手だ。そこらへんは警戒してもらわないと困る。
……警戒しないでくれたのは、ちょっとだけ嬉しいけど。
赤城さんは一度、扉を閉める。
「もう、会ってくれないかと思っていた」
――どうして。
仕事用のカバンを持った赤城さんが、俯く。
――どうして、そんなに悲しそうな顔をするんスか。
俺はこの前、赤城さんを襲った。
赤城さんの信頼をぶち壊して、関係性をグチャグチャに引っ掻き回したんだ。
それなのに、赤城さんは『会えないかもしれない』と思って、落ち込んでくれている。
――その様子を見て、落ち着いてなんていられなかった。
「――江藤に、赤城さんと二度と関わらないよう約束させました」
俯いていた赤城さんが、勢い良く顔を上げる。
「俺が勝手に、江藤と約束を取り付けたんです。俺が、赤城さんと会ってほしくなくて……江藤に、お願いしたんスよ」
赤城さんに、一歩だけ近付いた。
俺が近付いても、赤城さんは逃げない。
そんなことよりも、言われていることの意味が分からないと言いたげだ。
「赤城さん、教えてください。赤城さんと江藤の、本当の関係」
「それ、は……っ」
「じゃないと俺は、赤城さんになにをしてあげられるのかが分からないんスよ……ッ」
歩いて、距離を詰める。
赤城さんの悲しそうな顔は、もう、何度見ただろう。
「僕と、兼壱は……っ」
小さく、赤城さんの体が震える。
――『恋人だ』って、ハッキリ言わない。
だから二人の関係は、なにかがおかしいんだ。
「教えてください、赤城さん。……俺は、ふたりにどんなことがあったとしても、赤城さんを嫌いになったりしない」
細い腕を、力を入れずに掴む。
「全部聞いたうえで。……そのうえで、もう一回。俺に、告白させてくれませんか?」
赤城さんの顔が、どんどん青白くなっていく。
その理由は、まだ分からないけど。
「――僕は、本当に……酷い男、なんだよ……っ?」
今にも泣き出してしまいそうなんだってことだけは、よく分かった。
ともだちにシェアしよう!