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ひとりぼっちになることを恐れた赤城さんが、江藤にしてしまったこと。
それを『悪いことだ』と責める気は、全く起きなかった。
「幻滅、させたよね。きみが思い描くような僕は、初めからいなかったんだから。僕は自分のためだけに、ひとりの男を利用していたんだ。……きみに愛される権利も、資格も……僕には、ないんだよ」
赤城さんにとったら、江藤にしたことは【自分勝手なこと】だったのかもしれない。
自分の保身を考えた行いだったと、後悔しているんだろう。
だけど、だからって……ッ。
「赤城さんは江藤に、酷いことをされたじゃないッスか。だから、俺は赤城さんを酷い人だと思わないッスよ! 俺にとって赤城さんは、変わらずステキな人なんスよ……ッ!」
そう言っても、赤城さんは顔を見せてくれない。
力無く、何度も首を横に振っている。
「駄目だよ、本渡君……っ。僕は、きみを利用したくない……っ」
「利用だなんて思わない。俺は、赤城さんに頼まれたって離れることができないんスから……ッ!」
ガタッと、勢いよく立ち上がった。
その音がリビングに響くと同時に、赤城さんが叫ぶように言い放つ。
「――きみは優しいからッ! だから、僕はきみを傷つけたくないッ!」
ついに。
赤城さんが両手を、顔から放した。
――また、俺は。
「いつかきみは、男の僕を選んだこの日を後悔するかもしれない! 優しいきみはきっと、それを僕に言い出せないだろう? だけど僕はいつか、きみを手放せなくなるかもしれない。そうしたら、僕は一方的にきみを不幸にするだけになってしまう! そんなっ、そんなのは……もう、誰かに負担をかけるだけの生き方は、嫌なんだ……っ!」
――赤城さんを、泣かせてしまった。
ポロポロと涙を零す赤城さんが、首を横に振る。
「僕はずっと、おかしいんだ……っ! きみと一緒にいると、兼壱にも抱いたことのないような安心感に包まれて……離れると、悲しくなる……っ。優しいきみに依存してしまうのが、怖い……っ! 優しいきみに見限られて、友達として会うことすら許されなくなるのが……堪らなく、怖いんだ……っ!」
泣きじゃくりながら、赤城さんが痛々しく叫ぶ。
「きみを、傷つけたくない……っ! きみの目が、いつか覚めてしまうんじゃないかと思うと……僕は、堪らなく……その未来が、怖いんだ……っ!」
これはきっと、赤城さんの本心だ。
――なら、俺は。
「――それって……赤城さんも、俺のことが好きってことッスか?」
――嬉しくなってしまっても、いいんだろうか?
確かに俺は、女が好きだった。
男を恋愛対象に見る日がくるなんて思ってなかったし、今も、赤城さん以外の男にときめくのか、分からない。
ずっと男を好きだった赤城さんからしたら、そうじゃない俺との恋愛は怖いことだらけなんだろう。
――その恐怖を、俺はどうしたって取り除けない。
だけど、好きな人からこんなことを言われたら……舞い上がってしまっても、仕方ないじゃないか。
「江藤より、俺の方が好きってことッスか? 俺を選んでくれる可能性が……望みがあるってことッスよね?」
「嫌だ……っ、これ以上、踏み込まないで……っ」
「怖いのは、分かります。赤城さんの言ってること、分かってないワケじゃないんスよ。……でも、それでも……ッ」
歩いて、赤城さんのそばに寄る。
赤城さんは何度も首を横に振ったけど、そんなのムシしてしまおう。
「――俺は、赤城さんが大好きです」
イスに座る赤城さんを、抱き締める。
赤城さんの腕は、決して俺を抱き締め返してくれない。
それでも俺は、赤城さんを抱き締め続けた。
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