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 ――信じてほしい。  ――永遠を誓います。  そんな上っ面の言葉なら、いくらでも言える。……余裕で、百は言えるな。  だからと言って、百や千、言葉を渡しても……赤城さんの不安は、ゼロにならない。 「駄目だよ、嫌だ……っ。怖い、怖いんだ……っ」  俺を抱き締め返さないまま、赤城さんは震える。  赤城さんが、江藤にどんなことをされていたのか。俺は、全部知ってるワケじゃない。  もしかしたら赤城さんは、今までもずっと、江藤から別れをほのめかされていたんじゃないだろうか。  その度、ひとりぼっちになる不安を抱えて……なんでも、受け止めて。  ――そんなの、本当の恋愛じゃない。 「俺は、頭がよくないッス。だから、どうしたら赤城さんに安心してもらえるか……どんな言葉がいいのか、どんな行動がいいのか、全部分からないんスよ。ホント、情けなくてイヤになる」 「ちがっ、違う……っ。きみは、情けない人なんかじゃ――」 「でも!」  細い体。  小さく震えている、赤城さんの体を。 「――不安な気持ちがなくなるまでずっと、そばにいます! それで、赤城さんが不安じゃなくなったら、お互いに心の底から『幸せッスね』って、そう笑えるようになりたいんスよ!」 「……っ」 「好きです、赤城さん! 初めてあなたと出会って、あなたの笑顔を見たあの日から……ずっと、俺はあなたを幸せにしたいと思ってます!」  体を離し、至近距離で赤城さんの顔を見つめる。  涙で濡れた目も、ほっぺたも。  わなわなと震えている唇すらも、全部。 「――俺は、赤城鈴華さんを愛してます。……俺と、付き合ってください」  ――愛しくて、仕方ない。  至近距離で、見つめ合う。  ポロポロと涙を流しながら、それでも赤城さんは、俺から目を逸らさない。 「僕は、独りになってしまうことが怖い……ただの、弱いおじさんだよ……っ? 子供なんか産めないし、柔らかい体でもない。つまらない、暗い男だ……っ」  涙で揺れる目を、俺だけに向けてくれる。  俺にとってはその視線だけで、十分な答えに思えた。 「――それでも、僕は……きみに、この気持ちを伝えてしまって……いいの、だろうか……っ?」  ヤッパリ、あんな言葉だけじゃ赤城さんの不安は取り除けない。 (それでも、いい)  今すぐ赤城さんを幸せにできたら、そりゃ当然嬉しいさ。  嬉しいけど、今すぐ幸せにできなくたって、それでもいい。 「むしろ、言ってほしいッス。そしたら俺、ムチャクチャ嬉しいんで」  俺は赤城さんに選んでもらえて、凄く幸せだ。  だから俺も、全身全霊をかけて、赤城さんを幸せにしたい。  ……イヤ、そうじゃないな。  ――絶対、幸せにしてやるんだ。  赤城さんは俺の答えを聴いて、さらに涙を溢れさせる。  その様子がなんだか可愛らしくて、俺は赤城さんの目元にキスをした。 「へへっ。しょっぱいッスね」 「涙なんだから、当然だよ……っ」 「そッスね。……でも、赤城さんのなら嫌いじゃない」  もう一度、目元にキスをする。  そうすると、赤城さんがようやく……俺の腕を、握ってくれた。 「本渡君」  恥ずかしそうに、名前を呼ばれる。  俺はその声に応じるよう、閉じられた赤城さんの唇に、キスをした。

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