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 赤城さんの部屋に入って。  こうして、ベッドに乗っかったのは。  初めて会った、あの日以来だ。 「本渡君、待って――ん、っ」  赤城さんがなにかを言いたげに俺の名前を呼ぶ。  だけど俺は、ムリヤリその唇を塞いだ。  柔らかい、赤城さんの唇。  その感触を堪能するには、重ね合わせるだけじゃ足りない。  俺はにゅるりと舌を入れ、文字通り赤城さんを味わう。 「ん、ふ……っ! んっ、んぅ……っ!」  舌を入れられて、赤城さんが慌てたような声を漏らす。  が、意外と赤城さんは抵抗をしない。 「ん、っ、んんぅ……っ」  おずおずと、舌が差し出される。  遠慮がちに伸ばされた手が、切なそうに俺の背へしがみついた。  どのくらい、そうしていたのか。  そこそこ満足した俺は、赤城さんの唇を解放する。  少し離れた距離で、お互いの瞳を見つめ合う。  濡れた赤城さんの瞳に、俺が映った。 「は、ぁ……本渡、くん……っ」 「赤城さん、マジで……メチャクチャ好きッス」  乱れた呼吸の中で俺の名を呟く赤城さんに、間髪容れず告白する。  ――もう、ほんの少しのガマンもできない。  ――本気で、赤城さんが好きだ。  ハッキリと言い切った俺の言葉に、赤城さんが顔を真っ赤にした。  そのまま、赤城さんは視線を逸らす。 「そう、いう言葉には……慣れて、いないんだ……っ」  普段の赤城さんは落ち着いていて、穏やかそうな人だ。  そんな聖人みたいな人の、照れ顔。  それを見て『可愛いな』と思ってしまうのは、おかしくないはず。 「赤城さんは?」 「僕っ?」 「赤城さんは、俺のこと……好きッスか?」  赤城さんの顔が、さらに赤くなる。 「さっき言ってた……『江藤にも抱いたことのない安心感』とか『離れると悲しくなる』って。俺は、どんな気持ちで聞いていいんスか?」  まだ、赤城さんから『好き』と言われていない。  焦ったらダメだと分かってはいるけど、言葉が欲しい。 「赤城さんの気持ち、聴かせてほしいッス。……ね、お願い、赤城さん」  ネクタイに、そっと手を添える。  シュルリと、ネクタイの解ける音が鳴った。  赤城さんが着ているワイシャツのボタンを、ひとつだけ外す。  そうすると、赤城さんが両手で顔を隠してしまった。 (ヤッパリ、焦りすぎたか?)  ベッドの上で抵抗されないのが、赤城さんからの答え。  分かってはいるけど、ヤッパリ言葉で伝えられたかった。  だけど無理強いは悪かったかなと思い、俺はそれ以上の追及を止める。  ――つもりだった。 「…………い、気持ち」 「へ?」  赤城さんが腕で顔を隠したまま、ポツリと答える。  なんて言ったのか、ちゃんと聞こえなかった。  だから俺は、マヌケな声で訊き返す。  そうすると、今度はハッキリと聞こえた。 「――嬉しい、気持ちで……聞いていいと、言ったんだ……っ」  俺から顔を逸らした赤城さんの耳が。  ――ほんのりと、赤くなっていた。

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