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堪らず、赤城さんに抱きつく。
「赤城さん!」
そのままさらに、もう一度キスをしようとする。
が、赤城さんの腕がそれを邪魔した。
「うっ、赤城さん。腕、どけてほしいッス」
「ま、待ってくれ……っ。きみに、ひとつ、その……確認したいことが、あるんだ」
眉間にシワを寄せると、赤城さんが腕から目だけを覗かせる。
不安そうな、眼差し。
赤城さんはそれでも真っ直ぐ、俺の目を見た。
「兼壱から、聞いただろう? 僕の、こと」
「淫乱とか、マゾって話ですか?」
赤城さんが頷く。
「誰にでも脚を開くわけではないけれど、僕は、確かに……そういう行為が、好きだ。被虐性愛かと問われたら、自分では分からないけれど……強くは、否定しない」
「そんなの、俺は――」
「きみがなんて答えるのかは、分かっている。……それでも、きみに問いたい」
赤城さんは悲しそうな顔をした後。
小さく、微笑んだ。
そしてその表情のまま、俺に言い聞かせるよう、言葉を続けた。
「形だけでも、兼壱と交際関係にあったというのに、僕はきみに、惹かれていた。あの日、玄関できみがしたことを強く拒まなかったという事実もある。……それでもきみは、こんな僕でも……っ」
赤城さんが、小さく息を吸う。
「――きみは、僕を好きだと言ってくれるの……っ?」
わざと、自分を卑下して。
赤城さんがなにをしたいのか。
その意味が……やっと、分かった。
――これは、最後の忠告だ。
ノンケの俺が、男である赤城さんを選ぶのは……簡単なことじゃないのかもしれない。
どんな気持ちで、赤城さんは俺を試してるんだろう。
赤城さんに、なんて答えるのが正しいのかすら、分からない。
――だから俺は俺らしく、真っ直ぐにぶつかろう。
「――赤城さんは、俺が『赤城さんを好き』って言ったから好きになったんですか?」
「え?」
――予想外。
赤城さんは、そんな顔をしている。
「例えば、俺が今から【赤城さんはエッチな人だ】って幻滅して。それが理由で俺が離れていったとしたら。……赤城さんは、それを【仕方ない】で片付けられるんスか?」
「……っ」
赤城さんが、目を伏せた。
(ホンット、分かりやすい人だな)
だから、俺は十分だ。
「そんなこと、ないッスよね? なら、俺の気持ちを試さないでくださいよ。……言ったでしょう? 俺は、頼まれたって赤城さんから離れないって」
ギュッと抱き締めると、赤城さんの体が強張る。
「本当に、構わないのか? 僕は男で、きみは女性の方が――」
「それ以上俺の気持ちを否定すると、このまま乱暴にしちゃうッスけど?」
赤城さんが言葉を飲み込む。
「俺は、赤城さんが好き。……言葉だけじゃ足りないなら、コッチも証拠ッス」
「『こっち』って、なに――っ!」
密着した体で、赤城さんが俺の異変に気付く。
――赤城さんの体に押しつけられた、俺の逸物だ。
「俺は、好きな人相手じゃないと勃たないッス。好きでもない男の人を抱きたいなんて、思わないんスよ」
顎を、くいっと持ち上げる。
すると、恥ずかしそうに潤んだ瞳が、俺を捉えた。
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